第129話 牙皇子の素顔

『牙皇子様っ!! ゲロッ!』


 次元の狭間はざまから現れた、ゼロワールドの教祖、牙皇子狂魔。


 スウウゥ…………スタッ!


 彼は静かに地面に降り立った。


「やっとおでましね。牙皇子狂魔! ずっとあんたを殺したくてさ、ウズウズしてたんだよっ!」


『赤髪、待っていた……』


 斬咲とエクレア。


 この2体の腐神を倒そうものなら、自らがブラック・ナイチンゲールを血祭りにあげる。そう言っていた通り、想像を超えた早さで彼は現れた。


 藤花は美咲の完全回復のお陰で、体力、気力ともに充実していたが、イバラは精神的ダメージ、真珠は肉体的ダメージが色濃い。


 ブラック・ナイチンゲール、最大のピンチっ!




 ピタッ……


 ピタッ……


 ピタッ……



 フロッグマンが牙皇子に近づき、何かを耳打ちした。


 牙皇子狂魔。目の前に現れた彼は想像よりも小柄だった。身長も170センチ程だろうか。『残酷神』というには少し迫力に欠ける印象だ。


 マントで隠れてはいるが、体も華奢な感じが否めない。得てしてラスボスとはそういう雰囲気なのかもしれない。無駄に大きくもなく、無駄な迫力もない。見た目で判断すると痛い目をみるという典型だろう。


 ボボォンッ!!


 ギュアアアアッ!!


 藤花の命の炎が剣に変わる!!


「あんたを仕留め、くだらない計画はここまでにしてもらうっ!!」


『かっこいいなぁ。惚れ惚れするじゃあないかぁ……』


「私は絶対にお前を許さないッ! 地球ここはカテゴリー1ワンの遊び場じゃないっ!!」


『やめろ、黒宮。ひとまず落ち着け。武器をひっこめろっ! 話を聞けッ! ゲロゲロッ!』


「はあっ!? 牙皇子もろとも! あんたも殺すッ! それが私達の使命ッ! 人類滅亡なんかさせないっ! なにを聞けって言うのっ!?」


 ズンッ!


 フロッグマンは苛立つ藤花の前に立ち塞がった。


『結論から言う。牙皇子様はお前とは戦わない。戦うはずもない』


「何を言っているのか意味が分からないっ!!」


 シュボボオウッッ!


 藤花の紫炎の剣が唸るっ!


『待てッ! 俺を事故に遭わせたのは残酷神だと言ったろ? ゲロッ!』


「そ、それがなにっ?」


『なぜ、牙皇子様が俺を事故に遭わせたのか? 疑問には思わないのか? ゲロゲロッ!』


 そこだった。


 全く話が見えてこない理由。


「牙皇子が加江君を事故に遭わせた理由っ? そ、そんなの、事故に遭わせて絶望させて、腐神と契約させ易くする為……とかじゃないの?」


『違うな。牙皇子様は純粋に俺を憎んでおられたのだ。お前を傷つけた俺の事を……』




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオ!!



 さっきまで晴れていた空に、雷雲が立ち込める。真っ黒な雷雲が。



『黒宮、俺の言っている事の意味が分かるか?』


「ま、ま、まさかっ! 嘘、嘘……そ、そ、そ、そんなわけっ!」


 藤花の剣を持つ手の力が抜け、ガクガクと震えだした。


『さすが優等生。あっさり理解したようだな。ゲロゲロッ!』



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオッ!






『赤髪、黒宮藤花。会いたかった』



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォオッ!












 牙皇子狂魔は、ゆっくりと髑髏の仮面を外した。



 ガチャ……




 地面に転がる髑髏の仮面。




 牙皇子狂魔の素顔が藤花の目に飛び込んだ。長くもなく、短くもない灰色の髪をかき上げ、藤花を見つめるその瞳。右目は潰れ、左目のみが美しく、赤く、輝いていた。


 正にその赤、禁断の果実。






 そこにいたのは紛れもなく、黒のマントに身を包んだ……




























 『百合島ゆりしま杏子あんこ』その人であった!

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