第233話 驕り高ぶる

 カチャ


 ピンクローザは紅茶を味わうと、カップをソーサーへ置き、ネル・フィードの顔を覗き込む様にして話し出した。


「私はですね、弁護士なんです」


 笑顔なのだが、それから受ける印象は明るくはない。不気味な笑顔だ。


「マレッドさんから聞いて知っていますよ。優秀な妹さんだって……」


「そうなんですよ。私は優秀なんです。ウールップの法律事務所の中でも1番の実績をあげていたのが私なんですから。間違いありません」


「へえ。すごいですね」

(急に自慢か。これは本来のピンクローザの言動と一致するものなのか?)


 ネル・フィードはマレッドの目を見た。するとマレッドは軽く顔を左右に振った。


(なるほど、違うのか。やはり悪魔に取り憑かれてしまっているのか?)


 ピンクローザの自慢は止まらない。


「私はですね、姉が合格できなかった大学の法学部に現役で合格しました。そもそも姉は実力があるにも関わらず努力を怠る人間でした。そうだよね? 姉さん」


「そ、そうだね、私は楽な道を選んだよ。競争やプレッシャーから逃げた……」


「私の姉として恥ずかしいとは思わないの? ボロい町工場の事務員だなんて。誰にでもできるじゃない。弁護士の私とは生きる世界が違う。吸っている空気も違うわね。あはははっ!」


「底辺の、ね……」


「うえぇ……」

(やっぱりおかしいよぉ、この人〜)


 完全にアイリッサはドン引き状態。マレッドも本来のピンクローザの言葉ではないと理解しながらも、これが妹の本音なのではないかと思ってしまい、顔が青ざめ始める。


 一瞬にしてこの場の空気を凍りつかせたピンクローザ。しかし、ネル・フィードは冷静に話を聞き続ける。


「いやあ、マレッドさんもかなり優秀な方だと思っていましたが、ピンクローザさんはそれをさらに上回るなんて、なんてすごい人なんだ!」

(悪魔は短絡的なはずだ。どんどん悦にるがいい! 悪魔の本性を暴いてやる!)


 その褒め言葉に、明らかに機嫌がよくなったピンクローザの口はさらに滑らかになる。


「こんな小さな国に収まる私ではなかったわ。司法試験もあっさり合格したし、私の弁護士としての才能は大国ウールップで花開き、大企業お抱えの顧問弁護士にまでになったの。社長に相談されることもよくあるから、ビジネスやトレンド、経済状況など幅広い知識が求められるの。どう? 私ってすごいですよね?」


 その場の3人を完全に見下す勢いのピンクローザ。それに対し、ネル・フィードはさらに褒める。


「大国で一流だなんて、ピンクローザさん、私はあなたを尊敬しますよ」


「ネルさん、あなた品はないけれど話はできるのね」


「そうですか? 思ったままを話す主義なので、伝わりやすいのかもしれませんね」


 ピンクローザは満足気にティーカップを口へ持っていき、ひとくち紅茶を飲んだ。


「あなたと話していると、留置場で接見した、あの男のことを思い出すわ」


「留置場の男?」


 ピンクローザはシャツのボタンを上から2つ外し、興奮した様子でその時のことを話し始めた。

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