第234話 留置場の男

 『留置場の男』


 それが何者なのか? ピンクローザになにかしらの影響を与えた人物なのか? ネル・フィードは集中して話を聞く体勢に入った。


「10日前、私は顧問弁護士をしている会社の社長に頼まれて、その男の接見に行ったの。その男、その会社の社員でね、高額な物から少額な物まで、とにかく万引きを繰り返していた男だった」


「万引きですか?」


「そう。その男は万引き野郎! くっそくだらねぇだと思いながら私は豚箱に向かったのよぉ!」























 ───10日前




「連絡したアルテッツァ法律事務所のピンクローザと申します。接見に参りました」


「あ♡ ピンクローザさん、お疲れ様です。大変ですねぇ。どうぞ、こちらです」


 私は美人で優秀な弁護士として有名で、警察署内でも一目置かれる存在だった。


 顧問弁護士を務める会社の役員が、度重なる万引き行為でついに逮捕されたのだ。反省の色はまるでないらしい。


 私のキャリアから言って、この程度のレベルの案件は素通りしたかった。お世話になっている社長の頼みでなければまず、引き受けはしない。


 ただでさえ最近は睡眠が不足している。余計な仕事はしたくない。早く帰って寝たい。そう思っていた。


「ピンクローザさん、こちらです。接見が終了しましたらお知らせ下さい。では」


「分かりました」


 私は接見室へ入った。アクリル板越しに座る男。名を『エルリッヒ』と言った。私は彼の前に座った。


「貴方の弁護を担当することになりましたアルテッツァ法律事務所のピンクローザと言います。よろしくお願いします」


「知ってるよ。うちの会社の顧問弁護士の人だ。社長に頼まれちゃったんだね? 忙しいのにごめんね」


 私は初対面の人間に敬語を使って話せないクズは生理的に受け付けない。睡眠不足でストレスも溜まっていた。持っている書類を破いて立ち去ろうかと思ったが、私は我慢して話を進めることにした。


「エルリッヒさん。自供した余罪を含めると5店舗で108件ですか。警察が関知していないものは罪に問われない可能性が高いのに、わざわざ自供されたのですね。良心の呵責かしゃくからなんでしょうか。すべて示談の方向で話を進めていきます。よろしいですね?」


 私のその確認に対し、そのエルリッヒという男は全く違う話を私にしてきた。頭がおかしな人なのかと正直思った。


「ピンクローザ。綺麗な名前だね」


「はい? ありがとうございます。では示談……」


「君は運がいいんだね。とても」


「はい? 運?」


「そうさ。人生とはで決まる。そうは思わないかな?」


「そんなことはないと思いますが。私は努力で人生を切り拓いてきたと自負していますので」


「努力? それが報われたのは君の運がよかったからだ」


「何が言いたいんですか? あなたは……」


「僕が107回まで万引きで捕まらなかったのは運がよかったからで、108回目に捕まったのは運が悪かったからだ。そう思うだろう?」


「はぁ。今、私はとても運が悪いと実感していますよ」




 エルリッヒは私に話し続けた。


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