第5話 重大な報告

 日曜日。


 ついに3ヶ月ぶりの満開のSAKURAのライブの日がやって来た。


 藤花と杏子は夜羽女やばめ駅で合流し、ライブハウスのある下戸げこ九条くじょう駅に向かう電車の中にいた。


「重大な報告って、一体なんなんだろう? 心配で朝から下痢気味……」


「大丈夫だよ、藤花。たぶんいい報告じゃない? ヌード写真集発売とか」


「そんな鼻血ぶー的なことならいいんだけどさ。うー、駅でもっかいトイレいっとこ……」


「ストッパあげるよ」


「ありがと……う」


 実は昨日、満開のSAKURAのホームページ上にメッセージが掲載されていたのだった。



『明日、下戸九条で行われるライブで、今後の満開のSAKURAの活動についての重大な報告があります。ファンの皆様、突然で申し訳ありません』



「でも冗談ぬきで、たぶんだけど、メジャーデビューが決まったんじゃない?」


「杏子ちゃん、それだよ! きっとメジャーデビューが決まったんだ!」


「うん、イバラちゃんの努力と苦労がむくわれる日がついに来たんだよ」


「方舟様。どうかいい報告でありますように……そして下痢も早く治して下さい」








 ふたりは下戸九条駅に到着。徒歩5分でライブハウス『竜巻』に着いた。


 開場30分前、すでに30人以上が並んでいた。その半数は女性。まんさくのファンには女性も多い。ファンから言わせてもらえば、なぜもっと売れないのかとても不思議だった。


 このライブハウスの収容人数は300人。藤花が前回来た時は、それすらも満員にはなっていなかった。


「杏子ちゃん。今日私たちは伝説の幕開ーけを見るんだよね?」


「絶対にそうだよ。だから、ちゃんとハグしてもらおっ!」


 開場時間が迫ってきた。


 藤花たちの後ろにもだいぶファンの列ができてきた。


「はーい! 開場になりまーす!! 神チケットをお持ちの方! 先になりますのでお入り下さーい!!」


「よし! 行くでぇ、藤花!」


「あいあいさー!」


 ふたりは『神チケット』を提示して中へ入っていく。最前列の『神スペース』へと誘導された。


「はぁ〜ドキドキする。3ヶ月ぶりのイバラちゃん♡ 濡れちゃいそう♡」


「藤花はすぐ濡れるからねぇ」


「杏子ちゃんには負けますぅー」


 会場がファンで埋めつくされていく。


 『重大な報告』


 やはり、それについてファンたちは語り合っていた。


「新メンバー加入じゃね?」


「おおっ! このタイミングでパワーアップ! ありよりのあり!」


「メジャーデビューですな!」


 そんな周りの声を聞いて、藤花の気持ちも徐々に落ちついていく。


(みんな私と同じこと考えてる。間違いなくメジャーデビューだよね。でも新メンバー? それは考えてなかった。めちゃかわいい子なら大歓迎♡)




 そして……




 会場の明かりが消え、ステージがライトで照らされる。


「うおおおおおおおっ!!」


 変態男性ファンの雄叫びにも似た声援が会場に響き渡る。ついに登場!『満開のSAKURA』


 1曲目のイントロと共にメンバーが歓声に応えるように、はじける笑顔で手を振ってステージ上にやって来た! はずだった。



 しかし、今ステージ上には藤花の思い描いていた『それ』はなく、まったく異なった風景があった。


 オープニング曲は流れず、ステージ上にはメンバーが暗い表情で並んで立っている。しかも4人だけ。



 姫野ミルクココア、朝宮サラマンダ、竜胆りんどうブルーマーブル、薄羽陽炎うすばかげろうニイナの4人。憧れの天使あまつかイバラはいない。会場のファンもどよめいている。


『みんな。今日は来てくれてありがとう!』


 姫野ミルクココアが話しだした。


『今日は私たちから事前にお知らせした通り、重大な報告があります』


 藤花の足は震えていた。杏子が藤花の手を握る。


『私たち満開のSAKURA、リーダーの天使イバラが……グループを脱退しました』


「ええええええ───っ!!」


 騒然となる会場。


「どうして─────っ!?」

「なんでだよぉぉ!?」


「ふざけんなよッ!!」

「金返せッー!!」


 中には怒り狂っているファンもいた。


『みんな聞いて! イバラは身勝手に辞めたわけじゃないの。病気なんです。不治の病、病名はバミューダ病。現在、イバラは入院しています』


「嘘だ。嘘、いや……」


「藤花……」


『そして、イバラからのメッセージが届いています。みんな、聞いて』


(イバラちゃんのメッセージ!?)

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