第442話 ラファエルとミネルヴァ
僕はいま、大好きなビスキュートの笑顔を見ながらクッキーとココアを味わっている。あったかくて幸せな甘味が、僕の体の中に染み込んでいく。
怪物のお父さんの名前はラファエルさん。美人のお母さんの名前はミネルヴァさん。半年前にここへ引っ越してきたそうだ。
ラファエルさんは子供の頃から体が大きくて、レスリングでオリンピックを目指すほどの実力。でもケガで夢は叶わなかったんだって。今の趣味はガーデニング。気はやさしくて力持ちって感じの人だ。
ミネルヴァさんはミス・ディーツの最終審査にまで残ったことのある美人。美の秘訣は食事なんだって。だから、食材にはかなりこだわるらしい。どうりでこのクッキーも今まで食べたことのないおいしさなわけだ。
「僕ちゃんはフルーツは好きかい?」
「はい! 好きです」
「何が好きなんだい?」
「僕はウォーターメロンが1番好きです。パイナップルとチェリー、あとマンゴーも好きです」
「そうか。それはちょうどいい。ミネルヴァ、先日いただいたパイナップルがあっただろう? 出してあげて」
「ええ、分かったわ」
「わーい! 私もパイナポー好き!」
「ビスキュートもパイナップルが好きなんだね」
「うん! 美味しいもん!」
「ん? ビスキュート? 僕ちゃんはなんでマリアのことをビスキュートと呼ぶんだい?」
ラファエルさんが驚いたような顔で僕を見た。しまった。つい、ご両親の前であだ名で呼んでしまった。とうぜん気になるよね。
「初めて会ったとき、マリアちゃんがビスキュートをおいしそうに食べながら、自分の名前はビスキュートだって言ったので」
「マリア、そうなのかい?」
「うん」
その瞬間、ビスキュートの顔が少しだけ元気がないように見えた。言わない方がよかったのかな?
「つい、いつものくせで呼んじゃいました。すみません!」
「がははっ! 謝ることはない。少し気になっただけなんだ。名前とはとても大切なものだからねぇ」
「名前が大切?」
「そうだよ。もし、名前が違っていたら人生も変わってしまうんだ」
「そ、そうなんですか?」
「もちろんだ。名前には特別な力が宿っている。そうは思わないかね?」
「そんな気も、します」
もし、僕のアルバートという名前がベロンチョだったら、イジメにあい、やる気も起きず、自信も持てず、暗い人間になっていたかも知れない。
名前の画数が生涯の運勢に影響を与えるという
「ねえ、どうかしら? 来週の日曜日、マリアの誕生日会に僕ちゃんにも来てもらいましょうよ!」
ミネルヴァさんが綺麗にカットされたパイナップルがのったお皿をテーブルに置きながら、ラファエルさんに言った。
「いま私もそれを言おうとしていたところだ。どうだい? 僕ちゃんは来週こられそうかい?」
「え? いいんですか?」
「メルデス君、来てーっ!」
「マリアもこう言っている。どうだね? 来てくれるかな?」
「わ、わかりました!」
ビスキュートに来てほしいと言われたら断る理由はない。僕は今度の日曜日、なにがなんでもここに来る! 甘酸っぱい、みずみずしいパイナップルを頬張りながら、プレゼントは何がいいだろうと、僕は考えていた。
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