第16話 風原美咲
「この右腕にアンティキティラの力を宿して3ヶ月が過ぎた頃、ひとり娘の『
「えっ? 娘さんに癌!?」
「余命10ヶ月を宣告された。まだ14歳だというのにです」
「10ヶ月ですか……」
「私はそんな娘にどう接すればよいか分からなくなってしまいました。父親として情けなかったです」
「突然ですもんね。当然です」
「娘は
「はい……」
「日に日に娘が弱っていく。抗がん剤治療でつらそうな娘を見ていられなかった。余命は10ヶ月。こんな治療をしてどれだけの効果がある? はっきり言って疑問でした」
「治療で命を削られている様な、そんな感覚ですね……」
「治療を始めて1ヶ月が過ぎた頃、私は娘に『もう治療はやめよう』と言ったんです」
「娘さんは、なんて?」
「私は生きたい。死にたくない。そう言って私にしがみつきました」
「……はい」
「そこで私は『与えられた力』を知ることになったんです」
「アンティキティラの力ですね?」
「そう。泣きながら私が娘の手を強くにぎりしめた。その瞬間……」
ガチッ!!
ギリギリギリギリッ!
ガタガタガタガタガタッッッ!
「私の右腕の歯車のタトゥーが勢いよく回り出したんです。そして、にぎりしめた手が熱くなったっ!」
ボォォオンッ!!!!
「美咲の体から炎が上がり、髪の色が緑に変色したんです」
「髪の色? ってことはイバラちゃんのその髪も!?」
「そゆことなのよ」
「美咲はとくに痛いとか熱いとかは言いませんでした。ただ、顔色がみるみる良くなって……」
「癌がなくなったんですね?」
「その通りです」
「でも、アンティキティラの力で病は治せても命までは救えないんですよね?」
「
「はい。で、今、娘さんはどこに?」
「私は生きてるよ」
声のするほうを見ると、美しい緑色の髪をした少女が立っていた。小柄だが目力があり、芯の強い印象を受ける。
「あっ、美咲だ、おかえり♡」
「美咲、終わったんだね?」
「ただいま。激しく殺してきた。リベンジポルノ野郎」
「そうか。お疲れ様……」
「あはは……」
(『殺してきた』とか平然と。お仕事ってこと?)
アンティキティラの力で驚異的な回復を果たした美咲。医師たちも奇跡としか言いようがないと驚きを隠せなかった。数日に渡り、綿密な検査を受け4月に退院。現在に至る。
現在7月。3月に余命10ヶ月を告げられた彼女の余命は、イバラ同じくあと半年ほど。そんな彼女も藤花をチラリと見てイバラと同じことを言った。
「その人、イバラさんが連れてきたの? 激しく余命短そうだけど」
「藤花って言うの。余命はなんと3ヶ月っ! すごくないっ?」
「あの、あんまり嬉しそうに言わないでもらってもよろしいでしょうかー」
「はじめまして。
「黒宮藤花です。よろしくね!」
(可愛い♡ ペロペロしたいっ♡)
美咲は藤花の前まで来ると、しゃがんで
「あんたさぁ、人殺せんの?」
「…………へっ?」
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