第123話 ブラック・ナイチンゲールの名の下に

 ボボォンッ!! 


 ズアボッオオッー!


 陣平の命の炎が、今までにのない程の激しさで全身を包み、燃え上がる。


 『美咲の死』


 それに加え、怒りの陣平の姿を目の前にし、イバラと真珠は声を出す事も動く事もできずにいた。藤花も未だ目を覚ます気配はない。


 陣平は分かっていた。自分の命が、もう長くはない事を。


 先程のエクレアの一撃で、内臓が致命傷を負っていた。陣平の腐神を睨む瞳に宿る光は弱々しい。


「がはあっ……ぺっ! ごほっ!」


『ジジィ、貴様はもう死が近い。分かるぞ。ほっといても数分だな』


「…………じゃな」


『なら、おとなしくしてなよ。何をそんなに張り切って炎を燃え上がらせているんだ?』


「もちろん、お前さんにも死んでもらう為だ……!」


『it’s Cool !! 死に損ないにそんな力が出せるわけがないっ!』


 エクレアの言う通り、陣平は立っているのが精一杯。とても鵺や雷撃に立ち向かう事ができる状態ではない。


 『最終兵器』


 ゼロワールドが、腐神増員の為に人類に与えた3日間の猶予。その間に、陣平が編み出したのは禁断の必殺技。


『自らの命を捨て、腐神を葬り去る』


 数分後には死ぬ命。それを使うにはもってこいのタイミングだった。


「イバラちゃん! 西岡さんっ! クロちゃんによろしくなぁっ!! 残りの腐神、頼んだぞおおっ!!」



「じ、陣さーあんっ!!」


「陣ちゃん……!」














「はああああああーっ!!!!」












 陣平を包んでいた命の炎は、少しずつ小さくなり始め、ついに消えた。


 ざっ、ざっ、ざっ……


 陣平は玉砂利を一歩一歩踏みしめ、ふらつきながら、嘲笑のエクレアに近づいてゆく。


『自慢の炎も消してしまって何をするつもりだ? 武闘家らしく鵺でとどめでもさして欲しいのか?』


 ざっ! よろっ……


 陣平はエクレアの正面に立った。


『OK。お望み通りッ! ぶっ殺してやるッ! 死ねーっ!!」



 ハグッ!!



『んなっ!? ジジィっ!! は、離れろッ! このッ!!』


 陣平はエクレアが一撃を放つ隙をついて、素早く抱きついたッ!


 ムニムニッ♡


「腐神でも、おっぱいは気持ちええもんじゃわい……♡」


 エクレアの胸に顔をうずめた陣平は、束の間の至福を味わう。


『ふざけるなっ! またエロかっ!! 離れろおーっ!』


 『消えた命の炎』


 その行き先は陣平の細胞のひとつひとつ。ナノレベルの炎は、陣平の肉体そのものにセットされた。


「これで逃げられまい。ワシの全てを炎に詰め込んでお前にくれてやる。美咲を殺したお前の罪は重すぎる。ブラック・ナイチンゲールの名の下に……ワシが処刑……するっ!」


『や、やめろぉッ! くそッ! 離せえ─────ッ!』


 エクレアは全身に力を込め、振り解きにかかるっ!


「美咲……怖かったな……エロジジイが今から行く。寂しくないぞ……」


 陣平の体内から、黄色の命の炎が膨れ上がるッ!



 ブオオオオオオオオオオオッ!!


 キュウゥウウウ─────ンッ!!


『は、離せっ! くそぉ──っ!!』





























 ドッガァアア──────ンッ!!



























「あ、あ、あああっ……」


「陣……ちゃ……」





 バラバラッ……!




 陣平の命をかけた黄金の爆発は、最強腐神の一角、エクレアを消滅。風原美咲に続き、甲賀陣平もこの世を去った。


 甲賀陣平 享年74

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