第124話 咆哮

 ドォォォ……!


 バラバラッ! パラパラッ!


 陣平の『自爆ナノレベル』の爆音が未だに空気を震わせていた。細かな石や砂が降ってくる。あたりは砂埃でよく見えない。


「な、なんで? 美咲も陣さんも、死んじゃった! ど、ど、どうしよう……」


 イバラの動揺は色濃い。真珠は強い口調で喝を入れる。


「イバラ! しっかりしな! これが私たちがしている戦いなのよ。命を懸けたね……!」


 砂埃が収まってきて、視界が元に戻っていく。もちろん陣平の姿はない。


 














『キャハハッ! ジジィ爆死しやがったなああっ!!』











「あ、あ、あいつ! い、生きてるっ! な、なんでっ!?」


「陣ちゃんの命を懸けたナノレベルだったのにっ! んもうッ!」


 エクレアは生きていた。


 とはいえ、無傷というわけではない。体中から血が噴き出し、両腕、両足、共に肉が削げ、骨が見えている箇所もある。


 ご自慢の電流で痛みの伝達をブロック。そのおかげで平然としているに過ぎない。


『思ったより肉体の損傷が激しい……さっさと残りの3匹も片付けて、牙皇子様に肉体を修復してもらわなくてはいかんな、これは』


「修復? 牙皇子にもそんな力があるんだ。私も治して欲しいものだわ」


 真珠は感情を抑えてしまっている自分に気づいていた。大事な仲間がふたりも命を奪われた。にもかかわらず、心の中は冷静そのもの。イバラのように乱れはしない。


『お前にとって仲間の死など、大したことではなさそうだな。そうでなくてはなぁ! キャハハハァッ!』


「黙れッ! お前はここで始末するッ!」


 ボボォンッッ! ボオオウッ!


『できるかな? その蛇は私には効かないぞ!』


「や、やかましいのよ! イ、イバラッ! サポートをっ……」


「に、西岡さん、だめだよっ! 勝てないよっ! お、終わった……」


「イ、イバラッ!?」


 無理もなかった。


 完全回復の美咲、精神的支柱の陣平、そのふたりを同時に失い戦意喪失。頼みの藤花も依然起きる気配はない。


 普段から勝気なイバラも体を震わせ、目の焦点も合っていない。恐怖に全身を支配されてしまっていた。戦いのサポートなど、できるわけもなかった。


『氷の女、それでいい。お前は震えていろ』


 エクレアは強く拳を握り、稲妻を集中し始めた。


 ブゥゥゥウンッ! 


 バッチバチィッ! ズビビビッ! 


 ズゴゴゴゴォォオッ!!


「ヤ、ヤバい!!」


 ブアオオオオッウッ!!


 真珠は命の炎全開で身構えた!


Thunderサンダー cycloneサイクロンッ!!!!』


 ズッドォオオオンッ!!


 ズバババババババァッ!!



 稲妻が渦を巻いて真珠の横を掠めていった。エクレアは真珠に向かってサンダーサイクロンを放ったのではない。静かに横たわる美咲に向かって放ったのだ。


『よく見とけぇっ!! 次は貴様がこうなるんだっ! キャハハッ!!』


「や、やめてっ! 美咲はもうっ、死んでるじゃないッ!!」


 ギュルギュルギュルゥッ!!!!


 ビビビビビビビビィィィィッ!!


 バチバチバチィッ!!


 シュゴォォォオッッッ!!!!



 美咲の遺体はサンダーサイクロンの渦に吸い込まれていった。凄まじい風のやいばと稲妻の高電圧で、美咲の体は切り刻まれ灰となり、消え去った。


「あわ、あわわ……」


 涙目のイバラは尻もちをつくようにしゃがみこんでしまった。


『目障りなガキの死体を灰にしてやった! 次はお前らの番……』


 ズボォォォオッ!!


 真珠、怒りのブラック・マンバが、悦に浸るエクレアの腹を猛烈な勢いで貫いた!


『あががっ……!?』


「よくもやってくれたわね……! 私の大事な人を次々と……! 遺体まで傷つけるなんて、絶対に許せない!」


『お、お前になんで、こんな、パワーが……? がはッ!』



 ガチャンッ!!



 真珠のトラウマが感情にかけていた黒い鍵が、壊れて外れた。


「あんたの非道な行いが、私の怒りを解放した。




『非道な行い? キャハハ……ウジ虫がわく前に、焼却してやったんだろうが……感謝しろ……!』


 ブチッ!!


「西岡真珠……ブラック・ナイチンゲールの名の下に、腐神エクレア、お前を処刑するッ!」


 

 ズッドォオオオンッ!!



 ボボォンッ! ボボォォンッッ!!


 ドドドドトドドドドドォンッッ!!


 『ギャオオオウッ!』


 『ギャオオウッ!』


 『ギャギャオウッ!!』


 真珠の全身を包む、猛烈な漆黒の命の炎。そこから次々と暴れ狂う炎蛇が飛び出し、エクレアに襲いかかるっ!


 その数、100匹以上ッ!!


『な、なんだこれはぁっ!!? うがああああ────っ!!』


 次から次へとエクレアの全身を締め上げる漆黒の炎蛇。そのあまりの数の多さと力の強さに耐えきれず、全身の骨が砕けだす。


 バキバキッ! バキッンッ!!


「地球も私たちもゴミなんかじゃないッ!! 腐った神の自由にはさせないッ!!」


 ズドドドドドドオッ!!!!


『そ、粗大ゴミめがあっ! こ、こんなバカなことが……く、苦し……!』


 ギュウウウウウウッッッ!!


 ボオオオオウッ!!


「これで終わりよッ! 腐神エクレアッ!!」


『うぎええええ─────ッ!!』


















 ズドォォォォォオ───ンッ!!



















































 エクレアは漆黒の爆炎に焼き尽くされ、完全に消え失せた。


 ドサンッ!!


 真珠は仰向けに倒れた。


「美咲ぃっ!! 陣ちゃぁん!! 仇はとったからね────ッ!!」


 真珠は大空に向かって泣き叫んだ。

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