第18章 禁断の果実

第125話 反抗的な2人

「はあっ! はあっ!」


 西岡真珠、メデューサの最終形態『ゴルゴーン』でエクレアを撃破。


「に、西岡さん、ごめん。あ、あたし……」


 真珠は立ち上がり涙を拭くと、しゃがみこんで震えているイバラに、再び喝を入れる。


「イバラッ! 立ちなっ! もう1匹ッ! まだ生きてるッ! トドメを刺すよっ!」


「う、うんっ……!」


 陣平の体当たりで吹っ飛んだ斬咲。藤花の『龍王斬』でのダメージも大きく、虫の息だ。


 ザッ!


 真珠とイバラは、倒れる斬咲の頭上にやって来た。


『くっそゴミどもが……っ! エクレアは死んだのか? 油断ばっかりしやがって……!』


 ガッ!!


 グリグリィッ!


 真珠は、斬咲の顔面を踏みつけた。


「ゴミはあんたらよ。人間に取り憑いて好き放題やろうだなんて」


『足をどけろ……ゴミ臭い』


「あ、そーだ。エクレアの言ってた通り、ゴミは焼却しなければ不潔よね? あなたもそう思うわよね?」


『な、なにを……ッ!?』


「今、焼却してあげるわッ!!」


 ボオオォォオウッ!!


 真珠が右手に殺意を込めた命の炎を放出した、その時だった。


「西岡さん、少し待ってもらえますか?」


「藤花っ!?」


 藤花が目を覚まし、起き上がった。


「傷が治ってる。美咲ちゃんが治してくれたんですね?」


 真珠とイバラは軽くうなずき、目を瞑りうつむいた。それを見て藤花は、最悪の事態が起きた事を把握した。


「美咲ちゃんが? 陣平さんも見当たらない! まさか?」


「藤花、2人とも……なの」


「そうですか。私が気を失っている間に……」


「で、藤花。あなたがトドメをさすって事? こいつは可愛い美咲の手を切り落としたのよ。くそがッ!!」


 ググググゥ!!


『アガガガガアッ……!』


 真珠は憎しみを込め、さらに強く斬咲の顔面を踏みつける。


「斬咲が話すかは分からないですが、る前に、聞きたい事があるんですよ」


「聞きたい事?」


「はい」


 真珠は斬咲の顔面から足を退けた。藤花はしゃがんで斬咲に話しかけた。


「ラスボスは牙皇子狂魔。それで間違いない?」


『そんな事が知りたいのか? ああ。牙皇子様で間違いはない……』


「ふーん、そうなんだ」


『だが……配下のうちの2人……妙に反抗的な奴がいるのも……事実……』


「牙皇子に反抗的な2人?」


『1人は命令に従わず……突っ立ったままずっと空を見てる。そして……もう1人は契約すらしようとしない……』


「その2人はゼロワールド計画に興味なし……って事?」


『さあな……とにかく……変わった奴らだ……大した力もないくせに……』


「あんたとエクレアが牙皇子の最強の手駒! そうなんでしょ!? そうなんだよね?」


 イバラは確かめるように聞いた。


『そうかもな……なんにせよ……牙皇子様に勝てる人間など……存在しないのだ……』


「ありがとう。よく分かった」


 ボボォンッ!!


 ギュアアアアアアアッッ!!


「ブラック・ナイチンゲールの名の下にっ! 黒宮藤花ッ! 腐神、斬咲っ! お前を処刑するッ!」


『お前らに……明るい未来など……訪れはしない……ゴミ虫がッ!!』










 ズバァッ!! 



   ブッシャアッ!









「残り5匹……!」


 首を斬られた斬咲が蒸発していく。


 ぶしゅうううううっ!


 刀雷寺での戦いが終わった。


 最強の腐神と思われる斬咲、エクレアの2体を、美咲と陣平の犠牲を払い、なんとか消滅させる事ができた。


「2人が、死んじゃった……」


 イバラは泣きながらこの運命を呪った。数ヶ月後には死ぬ命。とはいえ、あっさりと消えてしまった2人の命。


 アンティキティラの力を得たばかりの時は無敵だと思った。しかし、腐神との戦いが進むにつれ、それは単なる幻想に過ぎなかったのだと、イバラの心に刻み込まれていった。


『イバラちゃんには裏表がない』


 藤花が髪を切る前に言ってくれた、本来なら嬉しいはずのその言葉が、悲しくも今、イバラの胸を締め付ける。


「わ、私は……」

(私はブラック・ナイチンゲールで1番弱い、いざという時に役に立たないビビり。強がっていても、誰よりも死ぬ事が…… 怖いっ!)










「私、もう、戦いたく……ない」



















 ピタッ……





 ピタッ……





 ピタッ……





 イバラの震えた か細い声は、この音にかき消された。戦いを終えた3人の耳に聞こえたのは間違いなくあの足音だったッ!


「こ、これはっ!?」


 藤花は怒りと喜びに震えた。この聞き覚えのある爬虫類の濡れたような足音。そう、これはッ!













「カエル野郎ぉぉぉお──っ!!」

















 振り向くとそこにいたッ!!





















 フロッグマンだっ!!




『ゲロゲロォッ!!』

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