第418話 裏の顔

 エミリーのスマホのロックを解除できるかも知れないと言うアイリッサ。果たしてその方法とは?


「アイリッサさん。なんとかなる、とは一体?」


「コットンラビッツでも話しましたけど、私のおじいちゃんって、そっち系統わりと強いんです」


「あーっ! ヴィトン13世を直したというおじいさんですね?」


「はい!」


『お姉たまのおじいたまかー♡』

(でも、直したトンちゃん、おなにーとか連発してたんじゃなかった? 大丈夫かなぁ?)


「スマホのパスワードの解読くらいなら、朝飯前なんじゃないかと……」


「高性能AIを直せる方ですし、是非ともお願いしたい!」


 謎多き存在『Judgment』の情報が喉から手が出るほど欲しい。0と1とでは戦況に天と地ほどの差が生じる。


 もう、あんな情けない真似はできない。負ける訳にはいかない。今後の困難を極めることが明確な戦いに向け、己の闘志のギアをトップに入れ直さなければならない。


 ネル・フィードはアイリッサの祖父に期待しながら、そんな思いも巡らせていた。


 


 





 ザッ!


 3人はここを立ち去る前にやらなければいけないことがあった。


「彼女の遺体は、ブラックホールで異空間へ封じます。情けないが、救う手立てを考える暇もなかった……」


 ネル・フィードは静かに右手をエミリーにかざした。アイリッサは冷え切ったエミリーのスマホを力無く見つめる。


「自分の命を守るので精一杯。これからの戦いはそういう戦いなのかも知れませんよ。ネルさん」


「そうかも、知れませんね」











 ギュガガガガッ!!


 ズオオオオオッ──────!!










 エミリーの遺体は時間の存在しないブラックホールに吸い込まれていった。


「本来ならば家族の元へ届けてあげたいが、なにが起きるか分からない現状では、やむを得ない……」


「仕方、ないですね」


 その場を覆い始めたやるせない、重い空気を、エルフリーナのヤヴァい考察が薙刀なぎなたの如く振り払う。


『ゼロさん、エミリー・ルルーが死んでもダークソウルが出てくることはなかったんだよ』


「ダークソウルが出ない?」


『Judgmentは私たち闇の能力者とはで、あの反則級のエネルギーを得たんだと思う!』


 ダークソウルのさらに上のなにか。


 あの凄まじい存在があと2人もいるという、希望の光さえも霞んでしまいそうな圧倒的な事実。パウルの実直なまでの渇望。それが巻き起こす、背徳のスクリプト。


 3人は覚悟を新たにする。


「闇の能力者、メルデス、エルリッヒ。この2人の動向も気になる。まずはアイリッサさんのおじいさんのところに行き、ロックの解除をお願いしてみましょう!」


「リーナ、変身は? 全然解ける気配はないわけ?」


『まったくないよ。自分で飛んで行ける。お姉たまのお家に早く行きたいっ!』


「はいはい。じゃあ、ネルさん行きましょうっ!」


 フワサッ!!


 アイリッサの背に優しい輝きの天使の翼が生えた。


「はい! 戻りましょうっ!」


『お姉たま、超かわいいーっ♡』


 こうして、エミリーのスマホのロック解除の為、アイリッサの自宅へ向かい3人は勢いよく飛び立った。











 その3人の姿を、ある人物が屋上入り口の窓ガラス越しに、目を細め見ていた。


 ガチャリ!


 その人物はドアを開けて屋上に入っていく。そして、エミリーの凍結攻撃の際に引き裂かれてしまった、ある1枚のチェキを拾い上げ、微笑む。


「いってらっしゃいませー。ネルフィーご主人様。アイリお嬢様。萌え萌え……♡」


 そこにいたのはpeach Creamのプレミアムメイド。chiepinちえぴん


 chiepinはスマホを操作し、通話を始めた。


 




「全員が飛行可能だ。エルフリーナと一緒に東に飛んでいった。メルデスに連絡を取らせろ」


『分かりました』


「エルフリーナは殺して構わない。後の2人も半殺しにして教団施設パンドラに連れてこいと伝えておけ」


『分かりました』


「さっきお前が見たという、黒髪の異星人の女は確認できなかったが、その情報は間違いないんだな?」


『間違いありません。実力もかなりのものです。自分の戦闘スキルでは勝てないと即座に判断し、撤退しました』


「エルリッヒちゃん。君の計算された戦略スタイルは嫌いじゃないけどさ、もう少しまともなプレゼンテーションができないと、リストラされちゃうよ?」


『すみませんでした。動揺してしまいました。以後、気をつけます』


「はーい。じゃあ、よろしくね♡」


『はい。失礼します』


 chiepinさん、ただの可愛いプレミアムメイドでは、なかった。


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