第419話 ペッケ

 第335話『peach Cream』で、初めてメイドカフェを訪れたネル・フィードを骨抜きにしていたプレミアムメイドのchiepinさん。


 その裏の顔は、あのエルリッヒを顎で使うほどの悪魔の力を持つ実力者。


 Judgmentなのか? それとも新たな別の存在なのか? 謎はさらに深まり始める。


 そんなchiepinの闇を知ることもなく、3人はスピード上げ、エーデルシュタイン家を目指していた。


 ギュンッ!


   シュウンッ!


    シュンッ!



「アイリッサさんのおじいさんは、おいくつなんですか?」


「先月、74歳になりました」


「その歳で機械に強いなんて尊敬しますよ。私は苦手な方ですから」


「子供の頃からなんでも分解するのが好きだったみたいで。仕事も車の整備やったり、エンジニアとしてゲーム開発やITに携わったりと、点々としたみたいです」


「とても華やかな経歴ですね」


「あと凄腕のハッカーだった。なーんて言ってましたけど、たぶん嘘」


「いえいえ、それは分かりませんよ」


「だって、今は訳の分からない物を作って遊んでるんですよ。ガラクタだらけで困っちゃう……」


 それを聞いたエルフリーナの瞳の中のGALAXYが、より一層きらめきを増した。


『素敵ー! 子供心を忘れない大人っていいと思う! 好きなことに没頭してるって、めちゃ魅力的♡』


「ポジティブに言えばそうなるのかも知れないけど。まっ、ボケ防止にはなってるのかもね」


 シュンッ!


    ギュンッ!


    シュウンッ!


 首都ルベリンを飛び立つこと30分。3人はバドミールハイムに到着。


「あれが私の家です。庭に着地しちゃいましょう!」


『すごーい! 広いお庭ーっ♡』


「なるほど。おじいさんの趣味らしきものが、たくさん置いてありますね」


 スタッ!


   スタッ! スタッ!


 エーデルシュタイン家の庭。草木はろくに生えてはいない。屋敷を囲う3メートルの高さの冷たいコンクリートの壁の上には物々しい有刺鉄線が張り巡らされており、まるで極悪人が収容されている恐ろしい刑務所のよう。


 庭の一画にあるガレージには、謎のマシーンが所狭しと、鈍く怪しい輝きを放ちながら並べられている。


「ね? こんなんだから我が家ってご近所さんからは、変わり者扱いされちゃってるの。ぷひー」


『私は好きかな。萌えるもん♡』


「シンプルにかっこいいです」


「まったく、他人事だと思って……」


 ガチャ!


 その時、玄関のドアが開き、ひとりの老人が姿を現した。


「アイリッサ、おかえり」


「ただいま、おじいちゃん」


「そちらはお友達か?」


「そうだよ」


 ネル・フィードとエルフリーナは、おじいさんの目を見て軽く会釈した。


「こんにちは。ネル・フィードと言います。アイリッサさんと同じ職場で働いています」


『エルフリーナでーす! ピッチピチの15歳でーす! にゃはっ♡』


「わしはアイリッサの祖父、ペッケじゃ。よろしくな」


 ペッケは2人とグータッチした。


「でね、おじいちゃんにお願いがあるの。聞いてくれる?」


「この老いぼれにできることならな」


 アイリッサはエルフリーナからスマホを受け取ると、ペッケに手渡した。


「そのスマホのロックを解除して欲しいの。できる?」


「スマホのロック? んなもんブラのホックを片手で外すようなもんじゃな」


「本当? よかったぁー」


「だが、タダという訳にはいかん」


「かわいい孫からお金取る気っ?」


「いーや。金なんぞくれてもいらんわい。えっと、あんのー、そんのー」


 ペッケは確実にエルフリーナのスーパーエロエロボディーを見ていた。妊娠しちゃうんじゃないかというぐらい、ガッツリめに見ていた。


 アイリッサはそれに気づき、過去いちの軽蔑の視線を向ける。それは、実の祖父に向けるレベルを遥かに超えていた。


「ちょっと、そこのエロじいさん。さっき聞いたよね? ピッチピチの15歳だって。この子、そう言ってたよね?」


「う、嘘じゃっ! この色気は15歳で出せるもんじゃないっ! ありえんじゃろぉっ! わしは騙されんぞっ!」


「もうっ! だから、本当にっ……」


「ふおおっ! ひ、久々のピッチピチギャルじゃ♡ 少しは楽しんでもええじゃろがあっ! スマホのロックの解除などしてやらんぞっ!」


 その剣幕を見たエルフリーナは色気ムンムンで、クレイジーシニア臭ぷんぷんのペッケの耳元に顔を近づけ、天使のような悪魔の声で、吐息混じりに囁いた。


『ペッケおじいたまはさぁ、私にぃ、何がして欲しいのぉ? ふうぅー♡』


「ふっ、ふがああっんっ♡」


 ガクガクッ……


 バタリッ!


 最近ちょっと聞こえの悪くなった耳に、あまりにフレッシュなエロウェーブを吹きかけられた老人は、恍惚の表情でその場に崩れ落ち、秒で天狗の鼻と化した股間を押さえながら、丸くうずくまった。


『あ、あれぇ? おじいたま、大丈夫ぅー?』


 ペッケおじいたまが復活するまで、しばらくお待ちください。

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