第417話 パンツと乙女心

 全裸のネル・フィードを屋上に残し、アイリッサとエルフリーナは、雑居ビル3階にあるアパレルショップ『honey Go』へ。


「いらっしゃいませー」


「どーぞー、ご覧くださぁーい」


 アイリッサはネル・フィードのサイズに合いそうなシャツとパンツをパパッと手に取り、足早にレジへ持って行く。


「これ、お願いします!」


『あっ、お姉たま。大事なの忘れてるよ♡ これこれっ!』


 笑顔のエルフリーナが持ってきたのは、男性用の下着。アイリッサはまた少し負けた様な気持ちになった。


「はあ……」 

(別にさ、付き合ってるわけじゃないし、ご自由にどうぞなんだけど。ネルさんも私のこと、ちょっとは好きなのかと思ってたわけで……)


「3点で6890ルーロでーす」


(昨日、パリスヒルの夜、エッシェル塔をバックに撮ったツーショット。私だけ勝手に盛り上がってたわけで……)


「ありがとうございましたー」


(悪い大人に翻弄されたアンネマリー。この子の心を救う為に仕方なかったのかもだけど。あー、だるっ! もう考えるのやめよ……)


 女子ふたりは、購入した衣類を持って屋上に戻ってきた。


「ネルさん、買ってきましたよ」


「あ、ありがとうございますっ!」


 ネル・フィードは物陰から手だけを出して衣類を受け取り、急いで身に付けた。


「サイズぴったりです! さすがアイリッサさん。大変、申し訳ありませんでした」


 照れながら2人の前に現れたネル・フィードに対し、優しい微笑みのエルフリーナと、暗く浮かない表情のアイリッサ。


「どうかしましたか?」


 元気のないアイリッサに気がついたネル・フィードは、すかさず顔を覗きこみながら声を掛けた。


「えっ? あっ、こ、この人、どうするんですかっ? 死んじゃってるんですよねっ?」


 アイリッサはエミリーの遺体をいたたまれない気持ちで見つつ、本当の元気のない理由を誤魔化した。


 ネル・フィードは悲しみの表情でしゃがみ、エミリーの遺体に手を合わせ、祈った。


「エルフリーナ、自分が不甲斐ないばかりに。すまない」


『えっ? あっ、気にしないで!』

(う〜、話したい。だめだめ。あのお姉さんにガチめに殺される……)


 ネル・フィードはエミリーの遺体を改めて確認。心拍、呼吸、共に認められず、脳波も感じられない。生体機能は完全に停止。死亡していた。


「ん? これは?」


 エミリーの右人差し指がないことに、ネル・フィードは気がついた。


『そ、それは、戦いの時に……』


「そうなんだね」


『でね、これなんだけど……』


 エルフリーナはポシェットからエミリーのスマホを取り出した。


「そのスマホは?」


『このエミリー・ルルーのスマホの中に、今後の戦いに役立つ情報とか秘密がないかと思って、指紋認証で開けようとしたけど、そのなくなった指が鍵だったみたいで……』


「パウルやJudgmentについての情報が、そのスマホには詰まっている可能性が高いというわけか」


『でも、ごめんなさい。パスワードで開けるのは絶対に無理だし。残念だけど……』


 エルフリーナが力なく握っていたスマホに、アイリッサがおもむろに手を伸ばす。


「それ、貸して」


『お姉たま?』


「まさかっ? アイリッサさんの天使の力でロックを解除……」


「できませーん! でも、ひょっとしたらなんとかなるかも知れない」


 アイリッサの言うスマホのロックを解除し、悪魔の秘密に迫る手段とは、果たしていかなる方法なのだろうか?


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