第389話 two crazy moms
お母さんはテンメツマルって名前の刃物を静かにお父さんに向けて無表情に立っていた。私が見る限り、お母さんはもうどこも震えてはいなかった。
「おいっ! そんなもんこっちに向けるなよっ! 危ないって!」
お母さんの脳はアロマキャンドルの香りやブラック・キューブの音で、もう十分に
「あなたはこれからも浮気や不倫を繰り返す。そして、私を傷つけるんでしょ?」
「俺は生まれ変わるッ! 神に誓うッ! だから許してくれッ! 頼むからっ!」
そのお父さんの言葉を聞いて、ヤヴァいお母さんが笑い出した。
「あははははははッ! 神に誓うですってッ! レイナさん、教えてあげなさい。そんなものはいないって!」
お母さんは純粋なるモライザ信者。『神がいない』なんて絶対に言わない。言わないに決まってる。私はそう信じて再びお母さんを見た。
さっきより かなり顔色が悪い。そして、再び震えだした唇を動かした。
「あなた、神なんていない、いないのよ。それが新常識というものよ」
ヤヴァいお母さんが満足げな顔でテンメツマルを持つお母さんに近づき、耳元で囁いた。
「我々人類はカテゴリーを上げる為にまずは『神の呪縛』から解き放たれなくてはいけない……」
「は、はい……」
「『神はいない』という事をきちんと理解しなくてはだめなの。その為に、その男を殺すの。ちゃんと意味のある行為なのよ」
「そ、そうですよね?」
妻に夫を殺させる。それは永遠の愛を誓った神に対する冒涜。神をこの世から消すのがネオブラの目的なんだ。
「2人とも落ち着いてくれ! 俺が悪かったッ! 許してくれっ!」
お父さんが土下座してる。そんなの意味ない。殺されちゃうよ。
私は怖かったけどゆっくり起きあがった。お父さんを助けなくちゃ。2人のヤヴァいお母さんに声をかけようとした瞬間だった。
「やめっ……」
グサリッ!!
「ぐわあ──────ッ!!」
お母さんがテンメツマルを思い切りお父さんの背中に突き刺した。でも血は一滴も出ない。
ゴクッ
ゴクッ
ゴクッ
ゴクッ
テンメツマルがお父さんの血を喉を鳴らして飲んでる。さっきヤヴァいお母さんが言ってたのは本当なんだ。テンメツマルは血を吸うんだ。
チューウウウウッ……
ゴックン!
『げえっぷっ!』
サラサラサラ……
シュウウウッ!
お父さんが私の目の前で砂になって消えた。こんな事があっていいの? 震えて立ちすくむ私に、2人のお母さんのヤヴァい視線が向けられた。
「アイリッサ、起きたのね」
「アイリッサ、私達は今日からモライザ信者をやめて、ネオ・ブラック・ユニバースに所属するわよ。もちろんレオンちゃんもね!」
「や、やだよっ! お母さんッ! 目を覚ましてよっ! ねえっ!」
お母さんはテンメツマルをヤヴァいお母さんに返して、私をじっと見た。
「目が覚めたから言っているのよ。理解しなさい、アイリッサ」
静かにそう言うお母さんの目は、完全にパキっていた。
そして、ヤヴァいお母さんはブラック・キューブとアロマキャンドルを急いでバッグにしまうと、私の手首をぎゅっと掴んだ。
「レイナさん。私 ひと足先にアイリッサを教団施設に連れて行くわね」
「はい。分かりました」
「この子には未知の力が秘められている。セレン様もきっとお喜びになる」
私は完全に抵抗する気力を失った。
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