第5章 覚醒 黒宮藤花

第28話 アンバランス

 チュン、チュンチュン


 チュン……





 2人は無事に朝を迎えた。



「おはよう藤花。よく寝れた?」


「……昨晩の出来事が夢の中でも起きてたよ。疲れがとれてない感じ……」


「私も、そう……」


 薄羽陽炎ニイナの家で一晩を明かした2人。普段から元気で強気な天使イバラも、さすがに疲労の色が隠せなかった。


 まちがいなく、下手をしたら自分たちが死んでいた。それを痛感していた。



『幸運』



 2人はそう思わざるを得なかった。


「イバラちゃん。私も腐神と戦えるようになりたいっ!」


「そ、そうね。余命3ヶ月の力! 頼りにしてるからね!」


「がんばる! でも美咲ちゃんに言われた私の『髪色の能力』と『みことの炎の特性』? どうすれば分かるのっ?」


「それね。私の髪色の能力は光速移動。命の炎の特性はブリザード。どっちもまずは命の炎を全開にしてみるところから始めるの」


「全開に?」


「そそ。そうすると全身の感覚が研ぎ澄まされる。その中で確認していく作業になる。何かを感じるはずよ」


「うん……」


 ぐるるるるる……


 藤花のお腹が鳴った。


「あはは。お腹空いたね」


「す、少し……」


「あはは。少しって音じゃなかったぞー」


「えへへ……」


「なんか食べよ。ニイナ、食べ物もらうね。絶対にゼロワールドの好きにはさせないから……!」


「テレビつけるね」


 藤花は嫌な予感の中、恐る恐るテレビをつける。


 すると、朝の情報番組すべてが、昨晩の『ゼロワールド』の番組ジャック及び、その異常性と凶暴性を伝え、注意喚起をうながしていた。


 フロッグマンの存在が、やはり強烈に全国民の恐怖をあおっていた。


「たいしたもんねメディアも。この番組だって、いつ襲われるか分からないのに命がけで報道してる。本当なら家から一歩も出たくないはずだよ、この人たちだって」


「……だよね」


 藤花は『永遠とわの方舟』の食べ物以外を食べることに一瞬とまどったが、もうそんな場合ではなかった。


 今はとにかく空腹を満たし、体が動く状態にしなくては命が危ない。その一心でパンにジャムをぬり、頬張った。


 朝食を済ませた2人は、さっそく藤花の力の確認作業に取りかかることにした。


「アンティキティラの力は余命が短いほど強くなる。ブラック・ナイチンゲールでいちばん余命が短いのは藤花!」


「う、うん。辛いけど」


「ゆえに! 藤花がブラック・ナイチンゲール最強!『類人猿るいじんえん最強』! ってことになるわけ」


「類人猿? 『霊長類れいちょうるい』じゃなくて?」


「と、とにかく! 藤花が一番あのクソ腐神どもと渡りあえる力を持ってるってわけ! うん!」


「すごい力が体の中でウズウズしている気はしてるんだよ。力をもらった直後は本当に『誰にも負けない』って感覚があって」


「今は、落ち着いちゃったの?」


「そ、そうだね。はじめてカエル野郎に襲われた時の恐怖も思い出すよ」


「藤花は精神的な弱さも感じるけど、たぶん優しいんだね」


「そうかな……」


「自殺してたし」


「あの時は、もうどうでもよくて」


「助けられてよかったよ」


「2度も助けてもらって、もはや神だよ……」


「はは。腐ってない?」


「うん! ピッチピチ♡」



「あはははっ」 「はははっ」













「F-1のエンジンを積んだ軽自動車って感じだね。今の藤花は」


「F-1?」


「アンティキティラの力がF-1のエンジン。弱い、優しすぎる心が軽のボディ、みたいな感じ?」


「なるほど……」


「その『アンバランス』が解消されたら、最強の戦士の誕生じゃない?」


「『類人猿』最強ね! ぷぷっ!」


「あっ! 馬鹿にしたぁ! 誰だって間違える時はあるしーっ!」


「あ、もうひとつ思い出した! 昨日の腐神を倒すときに『摂氏100万度だー』って言ってなかった?」


「言ったよ。それがなに? かっこよかったでしょ?」


「100万度って言ったら『太陽のコロナ』の温度だよ? 普通に私も死んでたよ。あはは」


「うるさいうるさいっ! 少しぐらいカッコつけたっていいでしょー! さっ、行くよ! 移動、移動っ!」


「うん!」

(イバラちゃんのおバカなとこ、超絶かわいいっ♡)

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