第29話 エロジジイ

 ブブゥゥッンッ!!


 イバラはどこかに向かい軽トラを走らせる。歩く人、行きかう車の数は極端に少なく感じた。


『ゼロワールド』の恐怖。それの影響である事は簡単に想像がつく。


「イバラちゃんは『人を殺す』ことに不必要な感情は捨てたって言ってたけどそんな簡単にできたの?」


「私も悪い人間をこの世から消したいって思ってたの。力を得て、心も体も信念も、強化された気がする。だから罪悪感にさいなまれるなんてことはないよ」


「そ、そうなんだね。私も強くなりたいけど……」


「悪いやつを躊躇ためらわずに殺せるから強いってわけじゃないよ。私の価値観であってね」


「うん……」







 ブブゥゥッンッ!


 ブブゥゥッンッンン……


 イバラの軽トラはとある場所に到着した。


「着いたよ。ここでみことの炎を『全解放』するからね!」


「ここって?」


 イバラの愛車で移動した先はお寺。


えい


「栄路寺?『栄える路のお寺』かぁ。縁起の良さそうなお寺だね!」


「ここは無住職の空き寺なの」


「えっ? そんなお寺あるんだ」


「でも人は住んでるよ。行こ!」




 ザッザッザッ……





 玉砂利を踏みしめながら進んでいく。無住職の寺と聞くと、歩く参道にもなんとなく物悲しさを感じる。そして若干のさびれた感はあるものの立派な本堂が見えてきた。


「いるかなぁ?」


「いるかなぁって、誰が?」


「ブラック・ナイチンゲールの黒一点、甲賀こうが陣平じんぺい。私は陣さんって呼んでるけどね!」


「陣平? 男性? ってことはっ!」


「いないなぁ。エロジジイ」


「うわぁっ! やっぱり! ひぇえっ!」


 藤花は身ぶるいした。エロい男なんてとことん最悪な生き物と認識していたからだ。


「あはは。どうしたのー?」


「無理無理無理無理っ! キモいよ!」


「キモい? そこまで言わなくても、かわいそうじゃん!」









 モミモミッ♡







「イバラちゃん、いらっしゃい。今日もええ尻してるわい♡」



「………!!」


「そして、この黒いお洋服も好き♡」


 スリスリッ♡


「うひょおっ───♡」















「キモいっつーのーッ!!」









 バキャンッ!!





「うがっ!! うがががっ……」


 イバラのローリングソバットがエロジジイに炸裂した。


「これも嫌いじゃないが、生い先短い年寄りにはもうちょっとサービスしてもいいんじゃない? おー痛い痛い」


「もうっ! ついにさわったー!」


「イバラちゃんよぉ。そっちの髪の赤い子は? 『ブラチン』か?」


「ブラック・ナイチンゲールを変な風に略さないでっ!」


「無理無理無理無理無理無理……」


「なぁーんか、お経唱えとるがよ」


「この子もブラック・ナイチンゲール。この前の私みたいにみことの炎を全解放して、髪色の能力と炎の特性を探りに来たってわけ」


「そうかい。ここでやりゃいい」


「あ、ありがとうございます……」


 藤花は恐る恐る礼を言った。


「名前はなんと言う?」


 甲賀陣平が真面目な顔つきで尋ねてきた。


「く、黒宮藤花です」


「クロちゃんじゃな」


「えっ? クロちゃん?」

(なんかヤダ……)


「両親は健在か?」


「は、はい。一応」


「好きな色は?」


「赤です」


「下着の色は?」


「赤です。……はぁっ!?」


「へぇ♡ 赤なんじゃな! ええのうっ! セクシーじゃのうっ!」




 ボカッッ!!






「ふがっ……いたたっ!」


「藤花は真面目な子なのっ! エロを振りまくのもいい加減にしてっ!」


「ふむ。では最後に重要な質問をするっ!」


「な、なんでしょう?」








 ツンツン!




「クロちゃん。Dカップはあると見たが……合ってる? にょほほ♡」


「……!?」


「いや、こりゃあEはあるかのぅ?」



 ツンツンッ!









「ぎいゃああああぁ────ッ!」







「もうっ! このエロジジィッ!」


 イバラが甲賀陣平を掴みにかかろうとした瞬間っ!





 ぴよ──────ん!






「あっ! 逃げたー!」




「ふう。これ以上、殴られてはさらに寿命が縮んでしまうわいっ!」


 ブラック・ナイチンゲールの黒一点、甲賀陣平はイバラと藤花の頭上、5メートルにフワフワと浮いていた。


「イバラちゃん! こ、これって陣平さんの能力ってことっ!?」


「その通り。陣さんの髪色の能力は『飛翔』。まぁ、浮くだけじゃなくて普通に飛び回れるんだけどねー」


 陣平の髪色は、真っ白だった。



「特に変化してないんじゃ? どゆこと?」

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