第495話 ハーデス・ブレイド

 俺はベリリアに釣り合う男になる。

そう心に誓い3年が過ぎた。その間、俺は女を抱かなかった。私生活はもちろん、どんな仕事にも真摯に向き合った。周りの俺を見る目が変わっていく。それと並行してベリリアとの距離も縮まっていった。


 俺とベリリアの交際が始まり、さらに2年が過ぎた頃だった。


『マギラバ、第9ミューバ担当のオルディナークがついにカテゴリー1になるらしいわ』


『めでたいじゃないか。いいなぁ、精神生命体。俺も早くなりたいな』


『ちょっと、もう忘れちゃったの? 前にした話!』


『ん? あー、あれか。ハイメイザーはなにかを隠してるってやつ?』


『そうよ。カテゴリー1は存在しない説。あってはならないこの発想が、どうしても頭から離れないのよ』


『俺もベリリアからその話を聞いてから、たまに考えたりもしてたんだ』


『そうだったの? てっきりバカにされて終わってると思ってた』


『そんなわけないよ。でも、やっぱりカテゴリー1はあると思うんだ。ミューバ発展の為に、神として降臨してる精神生命体もいるわけだし』


『確かに必要悪として降臨してるみたいだけど、その中には不必要な神が混じってるってことは知ってた?』


『ミューバは神だらけらしいね』


『ミューバ人を導くどころか、混乱の要因になっているの神がたくさんいるのよ。一体どんな神経してるのかしら?』


『考えようにもよるけど、ある意味、腐神よりも残酷な存在とも呼べるわけか』


『腐神は私たちカテゴリー2の力を与えた戦士が倒すことになっている。でも、世界中に根付かせてしまった数えきれない崇拝感情の衝突には、私たちは干渉できない』


『本来、ミューバ人の救いになるはずの神の存在。それが多すぎることで、逆に戦争の火種になっているのか』


『ミューバ人は弱くて脆い。それがゆえにどうしても排他的思考が強いのよ。神はひとりいれば十分。100も200も必要ないわ』


『でも、その発想に関してはベリリアは少し優しすぎると思うよ』


『どういうこと?』


『ミューバ人はその劣悪な環境の中で進化しなくてはいけないと思うんだ。最終的には、自分たちで神という足かせを外して前に進まなくてはいけない』


『そっか。それによりカテゴリーが最低の8から7に上がれるのか……』


『そうだよ。俺たちダークマターのご先祖様たちも、乗り越えてきた壁なんだろう』


『う……マギラバに言われると、なんか納得させられちゃうわ』


『俺たちダークマターがカテゴリー1になるのも、そう遠くはない。大丈夫だよ、ベリリア。俺たちは幸せになれる』


『そ、そうよね』


 数日後、すべてのオルディナーク人は肉体を離れ、精神生命体の暮らす宇宙空間にいざなわれたらしい。こうして人類のいなくなった惑星オルディナークは、ハイメイザーにより文明を消し去られ、原始の星になるのだという。


『今頃、オルディナーク人はマギラバの言っていたように幸せのみを享受きょうじゅしているのかしらね……?』


『ベリリア、もうやめよう。3日後にはヤヴァい任務も控えているじゃないか。気を引き締めていかないと!』


『そうだったわね。私たち『ハーデス・ブレイド』が揃って任務につくのは、かなり久しぶりだものね』


 俺たちの所属する最強機関マーテルクレストには100人程の精鋭が名をつらねている。中でも暗黒界七覇器ダーク・ドミニオン・セブンを扱える別格の7人は、ハーデス・ブレイドと呼ばれ敬意を払われている。


 俺とベリリアを含む、その7人に揃って出動命令が出たということは、それなりの危険が伴うミッションであることは言うまでもない。


 10日前、ある未開の惑星の探索に行ったマーテルクレスト10名の安否が不明となる。さらに、マーテルクレスト20名を送り込むも、またもや完全に通信が途絶えてしまうという前代未聞の異常事態が発生。


 そこまでの危険はないとされていたはずの惑星。その名はツァイド。今回の俺たちの任務、それは謎の惑星ツァイドの全容の解明と仲間たちの安否の確認だ。生きて情報を持ち帰らなくてはならない。


 3日後、ハーデス・ブレイドのメンバーが顔を揃えた。何年かぶりに会うやつもいた。


『マギラバちゃん、ベリリアと付き合ってるんだって? 羨ましいにも程があるぜ。締まり具合はどうなんだ? なあ、教えろって!』


 戦慄せんりつの道化、デストロ。こいつはお調子者だが戦闘になると信じられないほど冷酷だ。いつもブルーベリーのガムを噛んでいる。


『マギラバ、よろしくな……』


 黙示もくしやいば、ゼクロ。普段からなにを考えているのかよく分からない。必要最低限のことしか話さない。植物を愛する優しい一面もある。


『マギラバ♡ なんでベリリアさんなのぉ? 私の方が絶対エッチうまいと思うんだけど♡ 乗り換えない?』


 戦場の月花げっか、ルナクレア。俺はこの女の戦闘服の着崩し方とリップピアスがどうも苦手だ。香水も気になる。言わずと知れたヤリマンだ。


『マギラバ、久しぶりじゃねえか! 最近は随分とおとなしくなったみたいだな、このヤリチンが! がはは!』


 剛腕の戦獣せんじゅう、ドレイクルス。デリカシーも品もない脳筋野郎だ。ベリリアの言う通り、言葉遣いはやはり大事だ。息がいつもニンニク臭い。


『マギラバよ。ワシは今回の任務でハーデス・ブレイドを引退じゃ。よろしく頼むぞ!』


 終焉しゅうえんを望む武人、ザドリック。彼は自らの意思で不老不死を捨てた変わり者だが、その生き様や独自の戦闘スタイルは尊敬に値する。確か、後任はミロッカとかいう子だったか。


 ツカ、ツカ、ツカ、ツカ


 カスタムギアポッドを持ったベリリアが、少し遅れてやって来た。


『この7人で任務にあたるのは200年ぶりということで、気を引き締めていくわよ。なにが起きるかまったく分からないからね。みんな分かった!?』


『了解!!』


 その場の全員がベリリアの一言で気合いが入った。ベリリアの強さは皆が認めている。俺より断然リーダーに向いている。つか、全員ベリリアをリーダーだと思っている。一応、俺なんだけどね、リーダー。


 俺たちは謎の惑星ツァイドに向かう為、宇宙船に乗り込んだ。



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