第14話 歯車のタトゥー
若村の死体は氷の粒となって消えた。流れでた大量の血液も炎で蒸発させた。これで完全に殺人の証拠はない。
『完全犯罪の成立』
それを目の前で手品のように見せられ、イバラのいうアンティキティラという人物の存在も真実みを増していた。
「覚悟はいい?」
「私、余命3ヶ月だもん。怖いものなしだよ。イバラちゃんと一緒だし♡」
「よきよき。じゃあ、私の愛車でさっそく行こっか!」
ふたりはマンションを出て、イバラの車が停めてあるというパーキングに向かった。
(イバラちゃんの愛車って、いったいどんなんだろう? 早くイバラちゃんの匂いに包まれたひ♡)
あの憧れの天使イバラと一緒にいられる。それだけで藤花は有頂天だった。もちろん、濡れてしまっていた。
「さっ、乗って」
「う、うん……!」
バンッ!
……バンッ!
ブゥゥゥンッ!
ブゥゥゥッーーン!
藤花を乗せてイバラはアンティキティラの元へ向かう。イバラの愛車は内装がキラキラ可愛いカーキの軽トラ。満開のSAKURAの代表曲『私たちはドラマの中を生きている♡』が軽快に流れだした。
「私、真っ赤なスポーツカーとか想像しておりました」
「ライブで移動するときとか、荷物も載せられるから便利なの。私のかわいい軽トラちゃんっ♡」
「納得です。っていま私、憧れの天使イバラと密室でふたりきりなんだよね♡ 震えております!」
「天使イバラって実際こんなんよ? だいじょぶ?」
「十分素敵です。でも金髪になってたのには驚いたな。その力を得てイメチェンしたってこと?」
「行けば分かるんだなー」
「それも? そうなんだ」
それから30分で到着したアンティキティラの家。昭和の香りが漂う、ひと昔前の一軒家。瓦のヒビ、塗装のはげ、所々のさび。大きな地震が来たら真っ先に倒壊してしまいそうな家だった。
「なかなか古めのお家だね」
「でしょ? でもアンティキティラがこんな近くに住んでるってマジで奇跡だから。私たちはラッキーガールよ」
ガッ、ガラッ、ガラガラッ!
開け方にコツがありそうな玄関の戸を、イバラはなんとかうまいこと開けた。これは鍵かけなくていい訳だ。と、藤花は思った。
「お仕事、終わりましたー! 天使でーす!」
「はーい! ご苦労様〜!」
奥から男の声がする。
「イバラちゃん、今のが?」
「アンティキティラだよ」
イバラに続き、藤花もサンダルを脱ぎ、そろえて奥の部屋への廊下を進んだ。
「天使さん、お疲れ様ね」
部屋に入ると、畳に座りビールを飲みながら、テレビを見ているお兄さんがいた。藤花はひとまず挨拶する。
「こんばんは、はじめまして。黒宮藤花です」
(この人がアンティキティラ? 歳は20代? イケメンさんだ)
「どうぞ座ってください。天使さんのお友達ですか?」
「友達というか、ファンと言うか、その〜……」
口ごもる藤花を見かねて、イバラが簡潔に一言で伝えた。
「アンティキティラに会わせたくて、連れてきたに決まってるでしょ!」
「そういう事でしたか」
アンティキティラはコップのビールをクビっと胃に流しこんだ。
「あとどのぐらいなんですか? この子は」
「3ヶ月、だよね? 藤花」
「あっ! うんっ」
(藤花って呼ばれたあ♡ キュン死する)
「3ヶ月か。若いのに」
「私だって十分若いんですけど?」
「はいはい。天使さんも若いです!」
実はさっきからアンティキティラの右腕が気になって仕方がなかった藤花。なぜなら、右腕全体に大小様々な大きさで『歯車のタトゥー』が
アンティキティラはそんな藤花の視線に気づいた。
「気になりますか?」
「すごいタトゥーですね。めずらしいデザインだな、と思って」
(タトゥー入れてる人って、いきってる人多いけど。この人は穏やかだな)
「タトゥーね。まあ、それでも間違いではありませんが」
「えっ? タトゥーですよね?」
「そう見えるかも知れませんが、実はこれ、オーパーツなんですよ」
「オーパーツ? ひょっとして!」
アンティキティラ。どっかで聞いたことがある。藤花はずっとそう思っていた。そして『オーパーツ』と聞いてはっきりと思い出した。
「オーパーツと言えば『アンティキティラ
「ご名答。よく知っていますね」
アンティキティラは満足げな顔で、右腕のTシャツの袖をまくった。
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