第221話 日曜の朝

 翌日。ネル・フィードは7時に起床。洗顔を済ませラジオをつける。心地よいクラシックが部屋に流れた。


 ポットと鍋で湯を沸かしながら朝食の用意をする。パンをトースターに入れ、3分にセット。ボウルに卵を2個割り入れ、フォークで溶く。少し牛乳も混ぜる。



 ジュウウゥゥゥ……



 フライパンに溶き卵を流し込み、スクランブルエッグを作る。鍋の湯が沸騰してきた。そこへ大好きなソーセージを5本投入した。


 スクランブルエッグをいい感じの半熟状態で皿に移す。ケチャップを添える。ソーセージもグツグツともうじき茹で上がるところ。朝は焼かずに茹でたものを食べるのがネル・フィードのこだわりだ。


 カチッ!


 ポットの『朝の紅茶用』の湯も沸いた。



 トースト、スクランブルエッグ、ソーセージ、スライスしたトマトにちぎったレタス。


 これがネル・フィードの朝食の定番だった。クラシックの響く中、ムシャムシャと無言で食べ終える。


 最後にお気に入りのアミーユという紅茶をゆっくり味わいながら飲む。


 特徴的な香りと渋みが、起ききっていない脳を覚醒させる。これもまた朝の至福のひと時だった。


 約束の礼拝は午前10時30分からなので、時間はまだある。ネル・フィードはひとまず、日曜の朝の日課である散歩に出かけた。


 ネル・フィードの暮らす、ここ小国ディーツのバドミールハイムは温泉保養地として人気の高い地域だ。ネル・フィードが風呂好きになったのもその影響だった。石畳の小道に木組みの家屋という長閑のどかな風景が、さらにミューバに変革をもたらしたいという気持ちを高まらせていた。


 すれ違う人々。全てがモライザの信徒であろう。目を覚ませ……神などいない。モライザなど虚像。自分達が如何いかに神よりも尊い存在であるのかに気づかなくてはいけない。


 ミューバ人はそんなに頭が悪いのか?そんな事はないだろう?お前たちが崇めてしまっているのは、自分の事を『神』もしくは『神の使い』かなんかと勘違いしているただの人間だ。神は金など欲しない。金を欲するのは人間だけだ。


 神がそんなに必要ならば、自分の内に持てばいい。それで事は足りるのだ。それができるのも、人間の特権ではないか。


 飼い犬のように神に尻尾を振るのはやめろ。ミューバ人よ。愚かな動物に成り下がるな。



 ネル・フィードは人々を眺めながら、いつもそんな思いを馳せていた。


 そして帰宅すると最近吸い始めた『グロテスク』という銘柄のタバコを一本取り出して火をつけた。


「なんともこの煙がうまいものだ。女はタバコが嫌いというから吸ってみたのだが……アイリッサはまるで気にしてなかったな……困った娘だ」

 

 

 そして、時刻は午前10時になろうとしていた。ネル・フィードは見ていたニュースを消し、ゆっくりと礼拝堂へ向かう事にした。

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