第342話 そして誰もいなくなった

 よく聞けば『その声』はあまりに幼く、まだ子供のようにも聞こえた。エルフリーナはさらにゼロの耳元で囁き続ける。


『なんでひとりで来なかったの〜? しかも、よりによって女子と来るなんて。すかさず首をちょん切られても文句は言えないよ〜』


 ゼロは両手で首をガードしながら、必死にエルフリーナに語りかけた。


「すまない! エルフリーナ、私は君にとても興味がある! ちゃんと話がしたいんだッ!」


『私に興味?』


「ああ。なぜ君は人を殺す? なぜエチエチなどという危険ドラッグをばら撒くんだ?」


 悪魔に魂を売ってしまった彼女のを理解しなくては、彼女を救うことなどできはしない。ゼロは自分にそう言い聞かせながら、嘘をつくことなく正直に話しかけた。


『ふーん。そんなことを聞きにわざわざ来たの? ゼロさんも昨日殺したYouTuberみたいな感じなのかなぁ?』






 『昨日殺したYouTuber』


 それは、しかいない。







「エルフリーナ、それはスプラッシュ・カーターのことか?」


『そうそう。あの男『風俗潜入レポート』とか言って、おもしろおかしく生きてるからさっ、結構お気に入りだったんだよね。だから会ってみたかったんだ♡』


「じゃあなんで、殺してしまったんだ?」


 エルフリーナは深く溜息をつき、少し間を置いてから話し出した。


『あの男、このエルフリーナ様に向かって……してきたんだよね!』


「説教? カーター君がっ!?」


『そそ。なんかさ、君みたいな可愛い子がこんなことしてちゃダメだ! とか?』


「な、なんだって?」


『しっかり『A』舐めさせてるくせに、その最中に言ってくるからさ、こいつアホか? ってなっちゃった』


「A舐めの最中にだとっ?」


『うん。でね、『親が泣くぞ!』って言われたところで、はい、さよーならーって感じ? にゃは♡』


「なるほど、よく分かったよ」


『ゼロさんもカーター……だと思うよね?』


「ああ、クソだな」

(スプラッシュ・カーター。嬢に説教はタブー。そんなことは分かってるはずのお前がなぜ?)


『にゃは♡ ゼロさん、分かってくれるんだ。それじゃ、私の姿、見せてあげるねっ♡』


「ほ、本当か?」


『もっちろんっ♡』



 






















































 シャワールームに潜んでいたアイリッサは、ネル・フィードの声がしなくなって数分が経ったことに気づいた。


「ぷひー」

(ちょ、どうしたの? あれれ?)


 くんか、くんか!


 アイリッサは再び、ドアの隙間から悪魔の臭いを確認してみた。


「こ、これはっ?」


 アイリッサはシャワールームから飛び出したッ!


 バンッ!!


「ネルさんっ!!」













 コオオオオ……


 そこにネル・フィードの姿はなく、空調の音だけが不気味に響いていた。

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