第474話 急造の悪魔

 計算通り、焔魔天降ヘルファイア・レクイエムにより生じたネル・フィードの一瞬の隙をつき、メルデスはアイリッサとエルフリーナをナノレベルの牢獄に閉じ込めることに成功した。


『人質でも取ったつもりですか?』


「戦いに美しさなど必要ない。あなたが言ったことです。そもそも、あのふたりは十分な戦力のはず。それを削ぐのは至極当然しごくとうぜんではありませんか?」


『それはそうですね……』


 グッ


 ネル・フィードが静かに攻撃態勢に移行するのに気づいたメルデスは、勝ち誇って言った。


「ふたりの周りに設置したナノレベルは、あなたの激しい動きに反応して爆発するように仕掛けてあります」


『なんだとっ?』


「なので、あなたがいくら私を瞬殺しようとも、同時にふたりの焼け焦げた死体が床に転がるというわけです」


「ぷひーっ!」


『メルデス神父のバカー!』


『やってくれましたね……!』


「私の勝ちですっ!」


 シュボオオオオッ!


 メルデスの右手から冷気を伴った青い炎が吹き出した!


『そ、その炎は、まさか?』


「この炎であなたとアイリッサさんを凍らせます。そして、教団施設に運びます」


『その教団施設とはなんだ? 一体なにがあると言うんだ!』


 メルデスは青い炎と厳しい視線をネル・フィードに向けたまま聖書台へと歩み寄り、そこに座っていたマドレーヌを左手で優しく抱きかかえた。


「あなた方が思っている以上に、私は驚き、恐怖しているのです」


『恐怖?』


「あの Judgment ジャッジメントであるエミリー氏が、あっさりとやられてしまったことをです」


『黒髪の異星人に、だったな……?』


「Judgmentは私たち闇の能力者とは次元が違う……」


『エミリー本人も、確かそう言っていましたね』


「私たち闇の能力者は、パウル様にダークソウルを埋め込まれ生み出された、急造の悪魔と言っていい……」


『急造の悪魔?』


「だが、Judgmentは違う。肉体そのものが力。その存在はまさに悪魔の完全体。それがなぜ……!」


『メルデス……!』


 震えるメルデスを見ながらネル・フィードは考えていた。いま、彼の右手で揺れている青い炎が宿す冷気を上回る凄まじい冷気ちからを、エミリーはいとも容易く繰り出していた。


 それはなにかの力を介することなく、まばたきや呼吸をするレベルで自然に行われていた。メルデスの言うように、闇の能力者が急造の存在というのならば、Judgmentは綿密な計画により生み出された、より精巧で強力な存在だったのだろうと。


「我々はさらなる力を求めているのです。あなたの暗黒の力とアイリッサさんの光の力。どちらも頂きます!」


 ボオオオオウッ!!


『ど、どうすればっ!?』


 自分の動作はナノレベルの爆破を引き起こす。動けないネル・フィードに絶対零度の炎が牙を剥く!


氷獄滅破フリーズ・ブラスター──────ッ!!」


 ズオォォォオオッ!!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る