第475話 Wing

 アイリッサとエルフリーナ。ふたりの命を盾に取られ、身動きの取れないネル・フィードに容赦なく放たれたメルデス渾身の氷獄滅破フリーズ・ブラスター。ネル・フィードはその絶対零度の炎の刃をかわす動きすら許されない!


 バオオオオウッ!!


『ぐおお……くうぅっ!』


 バキバキキキキキキキキキッ!!


 猛烈な勢いで凍りついていくネル・フィードの体。狡猾こうかつなメルデスの繰り出す、みことの炎のバリエーションの多様さに対応しきれず、あっさりと女子ふたりを人質に取られる形となってしまった。


 完全に作戦負け。凍りながらネル・フィードは、詰めの甘さを痛感していた。自分が氷漬けになったあと、残ったふたりの奮闘に賭けるしかない。


 エミリー戦と同様の情けない展開。不甲斐ない自分に嫌気がさしていた。


 バキバキバキキキキキキキッ!!


「マドレーヌ。かっこいい僕ちゃんの姿をよーく見ていて下さいよ!」


 ボボォン!! ドシュウッ!!


 メルデスは勝利を確信し、命の炎の熱量と勢いを一気に引き上げる!


 その時だった。


 突如として謎の波動と共に礼拝堂内が無音となり、メルデスは激しい耳鳴りとめまいに襲われた!


 キ─────────ンッ!


「うがぁ! な、なんだこれは!?」


 足元がふらつく、目はとても開けていられない。そんな中、メルデスは異変に気づく。右手の命の炎が完全に消失してしまっていることに。


 この突然の事態にネル・フィードも気づき、あたりを見回す。


『い、一体なにが……?』


 さっきまで自分に襲いかかっていたはずの青の命の炎ブリザードの猛威が嘘のように消え去っていた。


 耳鳴りが止み、メルデスは慌てて目を見開いた。


「やはり、あなたでしたか!」


 彼の視線の先、そこには天使の翼を広げた、怒りにも似た表情のアイリッサがいた。


「メルデス神父、さっきの炎は私の天使の翼の羽ばたきで消せます。もうあなたには攻撃も回復もさせません。降参して下さい」


 アイリッサの言う通り、女子ふたりを取り囲んでいたナノレベルの炎も、入り口の大扉を封印していた漆黒の炎も、すべてが消えていた。


『天使の力、やはりすごい……!』


 ネル・フィードは改めてアイリッサの能力の底知れなさに驚き、形勢が一気に逆転したのを感じた。メルデスはそんな空気の中でも至って冷静な口調で話を始めた。


「そもそも私は戦闘を好みません。この手を醜い血で染めるなど、絶対にあってはならないことなのです」


『命の炎を封じられた割には、随分と余裕なことを言うじゃないですか』


「メデューサとナノレベルがあれば、十分あなたたちを倒せると思っていた……完全に私の不覚です」


 メルデスがマドレーヌの胸元のボタンをひとつ外し、なにかを探すようにドレスの中に指を入れた。


『負けを認めて下さい。人に戻るんです! メルデス神父!』


「私は本当に弱い。私はヒーローになれなかった。悪役ヴィランにしかなれなかった男なのです……」


 メルデスはマドレーヌの胸元からなにかを摘み出した。それは一粒のカプセルだった。


『ヒーロー? 悪役ヴィラン?』


「私はなりたかった。憧れの不道徳探偵クリムゾンに。好きな女の子を助けてあげたかった。一緒に生きていたかった。なのに私は、私は……」


 エルフリーナはメルデスが手にしたカプセルに見覚えがあった。それは瀕死のエミリーにエルリッヒが飲ませた例の赤いカプセルだった!


『ゼロさん! それをメルデス神父に飲ませちゃダメっー!!』


『な、なんだとっ? 飲むっ?』


 ゴクンッ


 時すでに遅し。メルデスは無表情でそのカプセルを飲み込んだ。エルフリーナの剣幕を見る限り、想像を超えたなにかがこれから始まるのは間違いない。ネル・フィードは後退あとずさりしながら膨らんでいくメルデスのパワーを感じ取っていた。


「私はクリムゾンになる。強くて、かっこよくて、なににも臆さない。本物のヒーローに……!」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……


『な、なにが起きるんだっ!?』


「メルデス神父の悪魔の臭いが、さっきまでとは別物です!」


『それは本当ですか!? アイリッサさん!』






 ドォォ──────ンッ!!



 シュウウウウウウ…………


『はああああ……! この姿で負けることはありえません! 負けてはいけないのです!』











 闇の能力者、悪魔の力の解放。


 ピンクローザと小濱宗治は髪が灰色になり、目が血走り、爪や牙がするどく伸びた。ホラーバッハは筋肉が爆発的に肥大化し、ゴリラのような見た目に変化。車椅子の少女アンネマリーは、妖艶な美女悪魔エルフリーナに変身した。


 果たしてメルデスはどのような悪魔へと変貌を遂げたのだろうか?


 

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