第476話  ジーニアスレベルリプロダクション

 アイリッサの天使の羽ばたきにより、攻守の要である命の炎を押さえ込まれたメルデス。彼は現実を即座に受け止め、冷静に次の手にうって出た。


 彼は愛人形ラブリードールマドレーヌの胸元から謎のカプセルを取り出すと、すかさず体内に取り込んだ。跳ね上がるパワーと同時に湧き上がるオーラ。その見た目も変化していく!


『はああああ……!』


 その姿。過去4人の闇の能力者と比べると、悪魔に変貌を遂げたとは言い難い。爪や牙がド派手に伸びるわけでもなく、筋肉が倍増するといった演出的な肉体変化も特にない。


 唯一、変化したのは髪。


 メルデスの美しい銀色の長髪は、幼き日の彼が憧れた『不道徳探偵』と同色、クリムゾンレッドに変化していた。


『私は今日、誰にも負けないヒーローになる! ビスキュート、見ていて下さい!』


 ブアオオオオッ!!


 覇気をまとったメルデスの真紅の髪は、まるでその場の3人を威嚇する龍の如く、天に向かって力強くなびく!


『これがメルデスのさらに隠されていた力というわけか!』


「せっかくあの炎は消せるようになったのにぃ! んもう!」

 

『メルデス神父! もうやめて! さっきのカプセルはなんなの? 私はそんなの貰ってないんですけどっ!』


 エルフリーナの悲痛な叫びを聞いたメルデスは、再びマドレーヌを聖書台に座らせると、落胆のこもった長い息を吐き出した。


『君には非常にガッカリさせられました。エルフリーナ氏、まぬけにもほどがありますよ』


『メルデス神父、あなたも私と同じように心に傷を負ったんだと思う。でも、だからってこの世界を壊すとか、やっぱりおかしいんだよ!』


『情けないことを言うようになりましたね。そんな脆弱ぜいじゃくな君はもう死ぬべきだ。生きている価値はもはや1%にも満たない』


『私は死ぬよ。人間としてね。ダークソウルも捨てる覚悟はできてる!』


『それはありがたい。君のダークソウルは、再び小濱宗治氏に使用することが決まっている。彼の望みでもあるのです』


『小濱宗治って、ゼロさんが倒した美醜逆転の闇の能力者でしょ?』


『そうです。彼にはそれだけの利用価値がある。エルフリーナ氏、愚かな君とは違うのですよ』


『どうせ私は愚かで価値ないですよーだ! メルデス神父のばかー!』


 ふたりの会話を聞きながらネル・フィードは思い出していた。アイリッサの弟レオンの話では、全身大火傷で入院していたはずの小濱宗治が、その日の夜中に病院から姿を消したという。


『そうか。小濱君の火傷を治し、再び組織に連れ戻したのは、あなただったのか!』


『気づきましたか』


『有名人であるあなたが、よく病院関係者に気づかれずに小濱君の病室まで辿り着けましたね。それだけが疑問でした』


 メルデスは少考の後、仕方がないといった表情ですべてを明かした。


『虹色の命の炎は全回復、さらに姿を消すことも可能なのです。おかげで私は難なく深夜の病院に忍び込み、彼を全回復させることができたわけです』


『そういうことだったのか……』


『私がここまで秘密を明かした理由がお分かりになりますか? それは確実に『死の花束』をあなた方に送る自信があるからですよ』


『そう易々とあなたのシナリオ通りにことは運ばせない!』


 ネル・フィードは戦闘態勢に入る!


 それを見てもメルデスは眉ひとつ動かすことなく、赤く変化した髪を触りながら、悠然と語り続ける。


『このクリムゾンレッドの髪になると、ある特殊能力が発動するのです』


『特殊能力だと……?』


天才的水準再現ジーニアスレベルリプロダクション。これがその能力の呼び名です』


『天才的再現だと?』


『私は10日前に小濱宗治氏と初めて会いました。その際、彼の驚くべき能力を拝見させてもらったのです』


『小濱君の能力? ま、まさかっ?』


『私の能力は、能力の完全再現!!』


 ズバッ!!


『や、やめろっ!』


無限階段の異空間インフィニット・ステアケースッ!!』


 メルデスは大きく広げた両腕に力を込め、能力を発動した! それはまさに一昨日、小濱宗治がしたのと寸分の狂いもない同じ動きだった。


 ド─────ンッ!!


 ズオオオオオオッ!!


「ぷひーっ! またあの螺旋階段の世界に行っちゃうのー!?」


『これが噂の無限階段の異空間インフィニット・ステアケース? かなりヤヴァいって話は聞いてたけど』


 3人が驚愕する中、目の前の景色はガラガラと崩れだし、2日前に閉じ込められた螺旋階段が乱立する厄介な異空間へといざなわれてしまった。

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