第477話 雷霆の重槌

 メルデスのクリムゾンレッドの髪色の能力『天才的水準再現ジーニアスレベルリプロダクション』でトレースした悪夢の無限階段の異空間インフィニット・ステアケースが再びネル・フィードたちに炸裂!


 一昨日の小濱宗治おはまむねはる戦で散々苦しめられたのがこの螺旋階段がひしめく異空間だった。能力者の意識を断っても、殺したとしても脱出は不可能。


 能力者の意思のみで出入りできるのが、この無限階段の異空間インフィニット・ステアケースなのだ。


『さて、小濱氏と戦ったことのあるあなたならご存じですね?』


『こ、この異空間で小濱君は思い描いたものを自由に具現化していた……』


『その通りです。そして、彼の技の中にかなり私好みのものがありましてね』


『なにをするつもりだっ!?』

(可憐か? 泰十郎か? まさか!?)


『それを拝借させて頂こうと思っているのです……』


 メルデスは右の手のひらをネル・フィードに向け、精神とパワーを集中する。


 グオオオオオ……!


 地鳴りの様な音が異空間を支配する。その音は徐々に大きさを増していくっ!


『やはりそれかっ!!』


『はああああ─────ッ!!!!』


 ズバシュウンッ!!


 バシュウンッ!!


 メルデスの全身にほとばし極黒ごくこくのプラズマ。暴れ狂うダークソウルが右腕に凝縮される!


「これ知ってるーっ! あ、あれだーっ! ぷひーっ!!」


『な、なんなのっ? お姉たまっ!』


 メルデスは小濱宗治の放った例の中二病究極奥義を身につけていたのだ!


『覚悟はいいですか? 見た目は同じでも、私の放つものの方が数倍の威力です!』


『来てみろ──────っ!!』


 ギュアアッッ────!!


 ミロッカの能力封印アビリティ・セールドが解けたネル・フィードも小濱戦の時とは比べものにならないほどダークマターが充実している。互いの全力と全力がぶつかり合う!
















極黒邪龍滅殺波ごくこくじゃりゅうめっさつは─────ッ!!』


 ドォォォオ──────ンッ!!


『ガオオオオ──────ッ!!』


 小濱宗治の極黒邪龍滅殺波。その威力は当時のネル・フィードの力を上回り、アイリッサの天使の力の助けがなければ食い殺されていたほどだ。


 そして今、メルデスが繰り出した極黒邪竜滅殺波の威力はその数倍に達し、爆発的な勢いで空気を押しつぶしながら突進してくる。それに対し、ネル・フィードは両拳を前に突き出した!


 ビシィッ!!


暗黒界七覇器ダーク・ドミニオン・セブンッ! 第三系!』


 ズバシュウンッ!!


  ズバッシュウンッ!!


雷霆らいてい重搥じゅうついっ!!』


 ズゴゴゴゴゴゴオオオオォォ!!


 突き出した両拳から漆黒のダークマターが噴き出し、闇の中で轟音と共に稲妻が激しくスパークする! ネル・フィードはそれを暗黒界最強の武器のひとつに変化させる!


『うあおおおおおおっ────!!』


 それはまさに雷神の咆哮!


 ズゴオオオオッン!!


 極黒の邪龍はそんなことお構いなしで、標的であるネル・フィードの頭を食いちぎりにかかるっ!


『ガオオオオ─────ッ!!』


 雷鳴轟く大金槌おおかなづち。雷霆の重鎚がまばゆい閃光と共に襲い来る邪龍に振り下ろされるッ!


暗黒雷鎚粉砕サンダラス・スマッシュ─────ッ!!』


 ズバシュウンッ!!














 ピカアッ!!




























 ドゴオオオオオオンッ!!
















 メリメリメリメリッ!!


『ガオウ、グガガァ……!』


 まさに目にも止まらぬ神の裁き。極黒の邪龍の頭部は見るも無惨に打ち砕かれ、激しい落雷と共に地面にめり込んだ。


暗黒界七覇器ダーク・ドミニオン・セブン。かなり久しぶりに繰り出したが、手応え十分だ!』


 小濱戦の時に、あれほど手こずった極黒邪龍滅殺波。それを一撃で粉砕できたことにネル・フィードは本来の力を取り戻しつつあることを実感する。


『あ、ありえない! 滅殺波が、効かな、効かないなんて……!』


 メルデスは本気で恐怖していた。やはり、目の前にいるのはエミリーを葬った謎の異星人の女と同類の化け物なのではないか?


 この闇をまとい姿を変えるネル・フィードという謎の男には、自分の力を最大限に引き上げ、技を繰り出したとしても、ねじ伏せることすらできない。命の炎も封じられ、彼は瞬間的に戦意を喪失。放心状態に陥った。


 その隙を今のネル・フィードが見逃すわけがなかった!


『決めるっ!!』


『しまっ……!!』


 ドガァッ!!


 ズドォッ!!


 ズドンッ!!


『うげえっ……!』


 ガクン、ドサッ!


 顔面、みぞおち、背部。ネル・フィードの強烈な打撃を連続で受けたメルデスは膝をつき、意識を失い倒れこんだ。


『アイリッサさん、天使の糸エンジェル・スレッドを!』


 倒れたメルデスから視線をはずすことなく、ネル・フィードはアイリッサに天使の糸発動の指示をだす。


「了解です!」


 ピカッ!


 キラキラ☆


 シュルルルンッ!


 アイリッサは倒れるメルデスを静かに見下ろし、光り輝く右手を彼の背部にかざした。


 ピクッ


 その時、メルデスの指先が微かに動いた。


『ビ、ビスキュートォ……!』


 未だ混濁する意識の中、彼の口から発せられたのは愛する彼女の名前だった。ネル・フィードとアイリッサは、急にお菓子の名前を口にしたメルデスに困惑しながらも、彼を人間に戻す手順に取り掛かる。


『アイリッサさん、お願いします』


「はい!」


 そのようすを言葉なくみつめていたエルフリーナは、突如として現れた謎の気配に気づいた。


『ゼロさん、お姉たま! なにかいる! メルデス神父はまだなにかをしようとしてる!』


『なに!?』


「ぷひー! 本当!?」


『みつけたあっ! あそこっ!!』


 バウッ! シャキィ!!


 エルフリーナは両手に魔風を束ね、攻撃態勢を整えた。するとそこに現れたのはひとりの少女だった。


「メルデス君をいじめないで」

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