第478話 進撃のビスキュート

 メルデスのダークソウルを抜き取りにかかるネル・フィードとアイリッサの前に、突如あらわれた涙ぐむ少女。


 それに対し、警戒心を強めたエルフリーナは既に魔風による斬撃を繰り出す体勢に入っていた!


「わわっー! えーん!」


 その少女は一目散にメルデスに駆け寄ると、大泣きしながら背中に覆い被さった。まるで大好きな人を守るかのように。


 その光景を見たネル・フィードの頭によぎったのは、小濱宗治戦に登場した可憐のことだ。見た目が少女だからといって油断できないのは百も承知。


 とはいえ、ほぼ意識のないメルデスが具現化させた彼女からは、殺気めいたものが微塵も感じ取れなかった。


『ま、まいったな』


「どうするの? ネルさん」


 ピククッ ビクビクッ!


 その時、メルデスの体が少女に反応するように激しく痙攣した。


『ゼロさん、お姉たま、どいて! 騙されちゃダメ! その子はさっさと消さないと……っ!』


 エルフリーナがそう叫んだのと同時に響いたのはアイリッサの悲鳴!


 ブシュンッ!!


 ビチャアッ!!


「ぶひゃあ────っ!!」


『アイリッサさんっ!!』


 メルデスに向けられていた天使の光に満ちた右手は、一瞬にしてその輝きを失い、ダークソウルを引っ張り出す為の天使の糸エンジェル・フリッツも灰になり、消えてしまった!


 少女が顔を上げ、口から謎の液体を発射。それにより、アイリッサの右手は醜く石化してしまったのだ!


「メルデス君をいじめる人は絶対に許さない。どうせ人は死ぬんだよ。Nゼノンでこの世の命はぜんぶ永遠に動かない石のお人形にしちゃうんだから」


『くっ! このっ!』


 ネル・フィードは少女を薙ぎ払おうと蹴りを放つ。もちろん全力の蹴りではない。彼の悪い癖とも呼べる。相手の実力に関係なく、女、子供には反射的に力が弱まってしまう。


 バシッ!


 少女はそんなネル・フィードのぬるい蹴りを軽々と受け止め、反撃する!


「くらえ! 電磁波攻撃っ!!」


 ビビビビビビッ!!


『ぐわあっ────!!』


 少女に掴まれた右足首に、焼けこげるような衝撃と共に襲いかかるとてつもない重圧感。それはまるで足首に隕石が落ちたかのような錯覚を思わせた。


 シュキャンッ!!


魔烈風狂襲デモゲイル・ランページッ!!』


 ブアオオオオッ!!


 エルフリーナは愛するゼロとアイリッサを傷つけたクソガキに、躊躇なく魔風の乱刃らんじんを放った! 


『ポップキャンディー・バリア!!』


 パキーン!!


 少女が可愛い手を前に突き出すと、数えきれない量のカラフルな飴が少女を包み込んだ。一見するともろそうなそのキャンディーの盾は、エルフリーナの魔烈風狂襲デモゲイル・ランページでも傷ひとつ付けることができず、かき消された。


 ビュウウウ……


『はあ? 嘘でしょっ!?』


 キャンディーの隙間から、敵である3人を睨みつける少女。その目に生気は感じられず、永遠のレディードールと同じ雰囲気を漂わせていた。


 思わぬ強敵の登場にたじろく3人。ろくに意識のない状態で、ここまで強力な具現化をやってのけるメルデスの底力と、この少女に対する強い想いを感じずにはいられなかった。


 ピクッ


『ビスキュート……?』


「メルデス君!?」


 ネル・フィードの攻撃により、傷つき倒れていたメルデスが意識を取り戻し、ゆっくりと起き上がった。

 

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