第473話 I wanna 罠

 メルデスが愛おしく見つめる聖書台に座るお人形。それは自分のことを初めてかっこいいといってくれたビスキュートが大切にしていたマドレーヌ。


 今日は能力者狩りとの決戦の日。


 メルデスはディストピア創世の邪魔者であるネル・フィードを倒し、マドレーヌにかっこいいところを見せたかった。あの日、ヒーローになり損ねた自分の為にも、今日は負けるわけにはいかない。


「あの時の私が本当に強かったなら、今頃、ビスキュートと幸せな家庭を築いていたのかもしれない……」


 メルデスは呟きながら、右手から激しく吹き出す虹色の命の炎を全身の傷口にめぐらせた。


 シュボオオオオッ!!


 傷口がみるみる塞がっていく。苦痛から解放されたメルデスは、視線を愛するマドレーヌから敵であるネル・フィードたちへと向けた。


「出ましたね。それが光の能力……」


 メルデスは目を細め、いま目の前で起きている事象を眺めるしかなかった。それほどまでに、その場が神々しい光に包まれていた。


『ありがとうございます。アイリッサさん。さっ、隠れていて下さい』


「ネルさん、気をつけてね!」


 アイリッサはエンジェル元気ボールをネル・フィードに注入。ダメージの完全回復を見届け、再びエルフリーナと共に数メートル後ろのチャーチチェアの後ろに身を隠した。


「私の命の炎と同じく、傷や体力を完全回復ですか。なるほど。実際に見ると実に禍々しい力ですね」


『もうさっきのは喰らいませんよ!』


 ギュアアッッ!!


 ネル・フィードはダークマターを鎧のように全身にまとった。その防御力はナノレベルの爆破をはね返す域にまで達している。


「暗黒の力を防御に全振りというわけですか。それでまともに攻撃できるのですか?」


『攻撃の瞬間、一気にダークマターを拳にのせる。隙を作るつもりはありません』


「まるで醜いカミツキガメですね。まったく美しさのカケラもない」


『戦闘に美しさなど必要ありません。こないならこっちからいきますよ!』


「そうはさせません!」


 シュボウッ!!


 スパークした命の炎が虹色から黄色に切り替わった。それと同時にバランスボールほどの大きさの火球を、メルデスは天井に向け放った!


 ボムッ!!


焔魔天降ヘルファイア・レクイエムッ!!」


 バァッ─────ンッ!!


 シュボボボボボウッ!!


 爆発と共に数えきれない炎の刃がネル・フィードの頭上に鋭く降り注ぐ!


 ズゴゴゴゴゴゴォォオ!!


『ぬおおおおっ!!』


 ドォォオ────ンッ!!


 そのすべてがネル・フィードに命中したが、硬質化したダークマターを貫通することはなく、あたりは飛び散った炎による煙に包まれた。


 ボオオオオオオオオ……


 視界を塞がれたネル・フィードはすぐに気がついた。これは攻撃ではない。攻撃に見せかけた目眩めくらましだと!


『し、しまったあっ!』


「気づきましたか? でも、もう遅いのですっ!!」


 ネル・フィードが焔魔天降ヘルファイア・レクイエム

を防いで安堵した一瞬の隙に、大量のナノレベルが新たな獲物であるアイリッサとエルフリーナの周りを幾重にも取り囲んでいたのだった!


「ねえ、リーナ。なんかヤヴァい展開になってなーい?」


『さすがお姉たま、大正解……!』 

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