第165話 アウトオブカテゴリー

『牙皇子様ぁっ! た、たしゅけてくだたあぁあいっ!!』


 さっき亜堕無アダムという腐神が言っていた。鎖鎖矢餽を『改造』したと。そして、彼は自分史上最強になったのだと。


 そんな現在『最強』であるはずの鎖鎖矢餽が、苦痛に顔を歪めて杏子に助けを求めてきたのだ。


『どうしたの? 鎖鎖矢餽。だいぶさっきの亜堕無と威無ってのにご執心だったようだけど。私の制止も無視してくれちゃってさ』


『ち、違うのですッ! 奴に頭の中をいじくり回され、軽い洗脳状態に。そして無理矢理、奴の力を体にねじ込まれッ!』


『なるほど。あいつはそんなこともするんだ……』


『牙皇子様の能力で、お助け……か、体が熱く、引き裂けそうで……』


『分かったよ。助けてあげる』


 杏子は鎖鎖矢餽の頭に右手をそっと添えた。


『鎖鎖矢餽、お疲れ様』


『へっ? 牙皇子……様?』






 ボンッッ!!





 バラバラッ!



 杏子は鎖鎖矢餽を爆破。跡形もなく消しさってしまった。


「杏子ちゃん、仲間の腐神だったんじゃないの!?」


『あの亜堕無って奴の力に、私の力は干渉できない。苦しまずに消してやるのが最善だったんだ』


 フロッグマンはなにかに気づき、杏子の顔を覗き込んだ。


『その右目は奴に? ゲロッ!』


 杏子は眼帯をとって潰れた右目を見せた。


『あいつは私から右目を奪って自分の目にした。なんの目的なのかは分からなかったけど、ご覧の通り、奴に取られた眼球は再生できない』


 杏子はそう言って、再び眼帯で右目を覆った。藤花は信じたくなかった。


「残酷神は『腐神最強』、違うの?」


『そのはずだったんだけどー。違ったぽいね! あははッ!』


『笑いごとじゃないですよっ! ゲロッ!』


「あいつらの目的は、やっぱりこの世界をめちゃくちゃにしようってことなのかしら?」


 真珠がそう言った瞬間だった。








「あの2人は、このミューバを『自分たちだけの楽園』にする為に来たのかも知れません」









『だっ、誰だっ!?』


 杏子はいきなり現れたその人物に見覚えがあった。杏子だけではない。その場にいた全員が知る人物だった。


 以前、身に纏っていた赤のフードローブ姿ではなく、ベージュのパンツスーツで身を包み彼女は現れた。


 永遠の方舟教祖『弥勒院はぐれ』


 彼女の突然の登場に皆 驚いた。


「教祖様っ!」


「はぐれっち!?」


『永遠の方舟の女教祖様が、こんなところになにしに来たの?』

 

残酷神あなたを越える力。その正体を伝えに来たのよ。私って超親切じゃない? うふふ」


『マジでアイツらはなんなんだ? ゲロゲロォッ!』


『早く教えてくんない? 残酷神の力を越える、あいつらの正体をさぁ』


 杏子に急かされ、弥勒院はぐれは空を見上げて言った。


「彼らは宇宙の8つのカテゴリーには含まれない存在。アウトオブカテゴリー『ハイメイザー』だと思われます」


「アウトオブカテゴリー? ハイメイザー?」


 皆が、その不気味な響きの存在に恐怖した。


「彼らも精神生命体。ですが、ハイメイザーが腐神化するなんて話は聞いたことがありません」


「今回がその第1号。単なるそれだけのことではないのですか?」


 藤花は体の震えを抑えながら、はぐれの目を見た。


「あなたの言う通りでしょう。我々は恐ろしい歴史の1ページを垣間見ることになってしまったのです」


「はぐれっち。そもそもそのハイメイザーってなんなの?」


 はぐれの視線は自然と下に向いた。


「ハイメイザーは宇宙の始まりにも関与したと言われる絶対的な存在」


「ビッグバンを? そんなのあり?」


「そして、カテゴリーを8つに分け、すべての宇宙のことわりを築き上げたのが、ハイメイザーなのです」


『そんなの腐神の本には書いてなかった。嘘じゃないでしょうねっ?』


「信じるか信じないかは、あなた次第ですが、こんな嘘、私になんの得もないことだけは分かりますよね?」


『さあ? それはどうだろうね』


 今度はフロッグマンが聞いた。


『ハイメイザーが『楽園』を作るってどういう意味なんだ? ゲロッ!』


「私の知る限り、ハイメイザーは『エデル』という名の宇宙空間に存在しているらしいのです」


「エデル? ゲロッ!』


「エデルとは『本物の楽園』」


『本物の楽園? ゲロォ!』


「そこに住まう全知全能の様な存在が、わざわざ腐神化してまでここに来る理由が分からないのです。エデルに何かが起きたのか。それによりエデルが楽園でなくなったのか……」


『あの粗暴な感じ。それから煙草についてもよく分からないとか言ってたし、全知全能も怪しいもんよッ!』


「とにかくっ! あの2人が今後どんな行動を起こすのか注意しておかなくてはいけませんねっ!」


「私は一刻も早く、ガルトッドへ帰りたい気分ですけどね……」


「昨日、地球と人類の『未来』を見てみたいって仰いましたよね? いざという時はエーデルシュタイン、お願いしますよ」


 藤花ははぐれの目から視線を外すことなく、じっと見つめならが言った。


「はいはい。分かってますよ」


 亜堕無と威無の正体。それは腐神化したアウトオブカテゴリー『ハイメイザー』


 ブラック・ナイチンゲールの黒宮藤花、西岡真珠。元ゼロワールドの百合島杏子、フロッグマンこと加江昴瑠。そして、永遠の方舟教祖、弥勒院はぐれ。


 果たしてこの5人で、ハイメイザー腐神『亜堕無』と『威無』を倒せるのだろうか?

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