第497話 迫り来る絶望

 ゴオオオオオオオ……!


 プシュウウウウッン!


 俺たちハーデス・ブレイドの7人を乗せた宇宙船は大気圏を抜け、着陸に適した地形の上空にやってきた。するとそこには、先遣隊せんけんたいの宇宙船が駐機ちゅうきしていた。危険生命体の有無を確認し、降下を始める。


 ゴオオオオオオオ……!


 ズウッ……ンッ!!


 宇宙船は無事に惑星ツァイドに着陸した。


『ベリリア、念のためマニュアルでの大気成分の確認を頼む』


『そうね、分かったわ』


 ピッ ピッ ピッ!


 ベリリアは宇宙船のアトモス・アナライザーを操作。未知の惑星ツァイドの大気成分を入念に調べ始めた。


『どうだ? 異常はないか?』


『ナイトロジェン61%、オキシジェン17%、ダーク素粒子8%、ヘリオガス3%、グラビウム3%、テルムフラックス1.5%……問題ないわ。大丈夫』


『ありがとう、ベリリア』


 続いてベリリアはカスタムギアポッドから7人分のエナジー・スキャナー、通称『ヴァイス』を取り出し、全員に配った。


『外に出る前にちゃんとヴァイスを装着するように。どんな危険なモンスターがいるか分からないからね。今日は最新のハーデス・ブレイド・モデルの性能チェックも兼ねてるわ。そのへんも忘れないで』


『おおっ、これが噂の最新型か! いかしてるぜ!』


 さっそくデストロがヴァイスを左耳に装着。左目はオレンジ色の小型スクリーンに覆われた。これを通して見れば、モンスターの位置、強さ、属性、感情、弱点などが手に取るように分かるという優秀すぎる代物だ。全員が最新モデルのヴァイスを装着し、起動スイッチを押した。


『がははは! 一体なにが俺たちを出迎えてくれるんだろうなぁ? 楽しみで仕方がねぇぜ!』


『実は浦島太郎の竜宮城みたいな星だった……なんてオチだったらおもしろくね? 綺麗なお姉ちゃんたちを取っ替え引っ換えでよぉ♡』


『デストロ、それ素敵ね♡ 私もイケメンちゃんたちと300年と言わず1000年だって遊んじゃうわぁ♡』


『こんな未開の星に人類なんているわけないでしょ! さっ、バカ言ってないで行くわよ』












 ウイイイ……ン!











 ズザッ!


  ザッ! ザッ! ザッ!


 俺たちは謎の惑星ツァイドに降り立った。地表は大半が岩石に覆われているものの、草木も生い茂り、鮮やかな色の花々も風に揺れている。


 見上げれば、赤らんだ空が広がり、黄色味がかった変わった形の雲がいくつも浮かんでいた。遠くには湖が見える。水源も豊富そうだ。


 なんの変哲もないこんな穏やかな星で、ダークマターの戦士たちが次々と消息を絶つとは。一体なにが起きたというんだ。俺はリーダーとして、ミッション開始を告げた。


『それでは、先遣隊の安否確認及び、惑星ツァイドの総合調査を開始する。細心の注意を払い行動せよッ!』


『了解ッ!!』


 俺たち7人はひとまず地上を進み始めた。あらゆる方角に探査用のホバーレイヴを5機飛ばした。怪しい物や生命体を捉えれば、瞬時にヴァイスへ情報が送信され、共有される仕組みだ。


 先頭を俺、最後尾をドレイクルスが歩く。鼻歌まじりで歩くルナクレアをベリリアが注意する。ゼクロは今日も黙ったまま、ツァイドの植物や土壌を採取。専用のバイオカプセルに静かに収めながら進む。


 ブルーベリーとニンニクと、甘ったるい香水の匂いを纏いながら俺たちは進む。本来、戦場でこんな匂いを漂わせるなど許されることではない。


 なのだが、この匂いに敵がおびき寄せられることを俺たちは願っていた。その方が仕事がてっとり早く済む。最強の7人だから許されるふざけた行為というわけだ。逆に敵がビビらないように、バトルエナジーは抑えて歩く。


 2時間が過ぎた。


 デストロはあくびを堪えている。ザドリックさんは膝が痛くなり、低空飛行で飛び始めた。未だ先遣隊の痕跡を見つけることはできない。


 さらに1時間が過ぎた。


 なにも起きない。最新型のヴァイスがなんの反応も示さない。不良品なのかと思えるほど静かなものだった。ホバーレイヴからの通信もなにひとつありはしない。そろそろエネルギー補給をしようと立ち止まろうとした、その時だった。


 ピピピピッ!!


 全員のヴァイスがなにかを捉え、一斉に反応した。それは俺たちハーデス・ブレイドに対しても危険を知らせるレベルの警報音。俺はヴァイスのスクリーン越しに対象を確認した。


『お、女の子だと……!?』


 ありえないと思った。


 あんな少女が、俺たち用に改良された最新のヴァイスに反応するなんて。しかも、危険レベルの数値はMAXに達している。そこまでのエナジーなら、俺の超感覚スーパーセンスがヴァイスよりも先に捉えていてもおかしくない。


 にもかかわらず、俺はいまだに肌で少女のエナジーを感じ取れてはいなかった。


『マギラバ、こりゃあさすがに故障じゃねぇか? あの子が俺たちを上回るなんて……』


『デストロ黙ってろ。故障じゃない』


『マ、マジかよぉ!?』





 ズッドォオオ────ンッ!!





 そのやり取りとほぼ当時、ザドリックさんの超スキル『爆速解放エナジー・ブースト』が発動。1秒でダークマターを最大出力にまで引き上げた!


 ギュオオオオオオオオッ!!


『みんな! 下がっとれいっ!! あの見た目に騙されたらいかんぞおっ!!』


『ザ、ザトリックさん!?』


 俺が問いかける間もなく、ザドリックさんは既に少女に攻撃を仕掛けていた。両手に燃え盛る炎に包まれたダークマターの斧。それは暗黒界七覇器ダーク・ドミニオン・セブン、第四系『業炎ごうえん双斧そうふ


 ザドリックさんは、その二刀流の大斧をクロスして振り下ろした!


暗黒炎舞爆裂斬ダークフレイム・ラプチャー────ッ!!』


 ゴオウッ!!


  ゴオウッ!!


 ボオオオォォオ────ンッ!!


 一瞬の躊躇ためらいもなくザドリックさん必殺の一撃が大地もろとも少女を飲み込んだ。





 ゴオオォォォォ………


 ガコンッ……


 バラバラッ……


 

 あたりは砕けた岩石と舞い上がった砂煙り、それらが焼けこげた匂いで充満していた。


 ザドリックさんの爆速解放エナジー・ブーストからの、覇器一閃。これを凌いだとしたら、それはもう完全なる『敵』として認めざるを得ない。


 そう思っていた俺の想像を、その少女は軽々と飛び越えていた。

 

『ザドリックさん、ありがとうございます。あの子はなんなんですか? まさかこの星に知的生命体なんて……」


 ベリリアが呼びかけた。


 








 ドシャアァァッ!!


『ひっ……!!』


 普段から冷静沈着なベリリアが、身をのけぞらせ悲鳴を上げそうになった。ベリリアだけじゃない。その場の全員が驚き、大声を出しかけていた。


 攻撃をしかけたザドリックさんが、泥のように崩れ落ちて死んだんだ。まるで細胞が崩壊したかのように。



 

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