第11話 天使

 夏の夜道を力なく歩く女子高生。


 黒宮藤花、17歳。


 信じていたもの、愛していたもの、その両方をいっぺんに失い、自分そのものも失いかけていた。


「杏子ちゃん。大好きだよ。ひとりにはしないからね」

(『闇雲やみくもびょう』? なによ、それ。イバラちゃんのバミューダ病といい、私はそんな病気に殺されるぐらいなら自らの死を選ぶ! 早く杏子ちゃんのそばに行きたいよっ!)


 藤花は手っ取り早く死ぬために、気がつくと近くのマンションの階段を一段一段のぼっていた。


 13階まで登ったところで下を見た。



「高い。死ねる……」


 藤花は迷うことなく13階の踊り場から身をのりだし、頭から一気に身を投げた。


 フワッと一瞬、無重力のような感覚に襲われた直後、体が地面にどんどん吸い込まれていく!





(これで死ぬんだ。杏子ちゃん、今行くからね……)






















































「よいしょっと!!」


 ガシッ!


「うわぁあ!? ……ぁええっ!?」


 真っ逆さまに落ちる体が抱きかかえられる感覚と共に宙に浮いた。


 スタッ!!


 そして、着地。


「なっ、なに!? なんでぇっ!?」


 藤花は訳が分からなかった。13階から飛び降りて生きている。しかも、誰かに『お姫様だっこ』されているこの状況。


「また会ったね。っていうか、ひょっとして3回目?」


 藤花は薄明かりの中、自分を抱えている人物の顔を見た。その瞬間、震えて涙が止まらなかった。


 金髪のおしゃれなデザインのサングラスをしたその美女は、紛れもなく、天使あまつかイバラだった。


「イバラちゃん、なんで……?」


「落ちてくるあなたが助けて欲しそうだったから助けたの。それだけ」


「私が、助け……?」


「違ったならごめんね。また上まで登って飛び降りてくれる?」


「そ、そんな事は……」


「そっ。じゃあ、はい」


 そう言って、天使イバラは藤花を地面に下ろした。


「あ、あっとっと!」


 足がカクカクして、うまく立っていられない。


「あっははっ! 生まれたての小鹿じゃん! あっははは!」


「あはっ! って、ちょ、ちょっとイバラちゃん! なんで? 病気は?」


「治った」


「ええっ!?」


「治してもらった」


「だ、誰に?」


「アンティキティラ」


「アンティキティラ? なんか聞いたことある……」


「貴方も『不治の病』の臭いがする」


「えぇっ!?」


「違う? 私の勘違い?」


「さ、さっき闇雲やみくも病って言われて。3ヶ月で死ぬって……」


「3ヶ月っ!? それはなかなかの上物じょうものだね」


「じょ、上物……?」


「後で話すね。今から仕事なの。良ければ一緒に来る?」


「お仕事? う、うん」

(憧れのイバラちゃんと、私は今行動を共にしようとしている! なに? この展開っ?)


「エレベーターで15階へlet's goよ」


「は、はぁい♡」

(聞きたいことは山ほどあるけど、ぜんぶ後で2人きりで教えてくれるってことね!)


 藤花は憧れの天使イバラと一緒に、マンションの15階へ 向かう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る