第499話 国境封鎖

 ピピピピピピピピピピ!


 時刻は朝の6時。ネル・フィードは慌ててアラームを止めた。ベッドで寝ていたレオンが、気だるそうに身を起こす。


「おい、大丈夫かよ? かなりうなされてたぜ。怖い夢でも見たのか?」


「夢? うーん。見たような、見てないような。忘れてしまいました」


「つーかまだ6時じゃん。もう起きるの? あんた早起きだねぇ。ふわあ……」


「すみません。マナーモードにし忘れていました。レオンさんはまだ寝ていて下さいね」


「ったりまえだろ。外にはゾンビもいるってのに。世の中どうなんのよ?」


 昨晩、超シスコンのレオンは怪しげな男ネル・フィードに対し、姉の彼氏なのではないかと疑いの目を向けていたのだ。もちろん、その視線には嫉妬の炎が宿っていた。


 ネル・フィードはレオンの自室に招かれ、刑事ドラマばりの尋問を小1時間受けるハメになった。疑いは晴れたものの、憔悴のネル・フィードは、そのまま部屋のソファーで泥のように眠ってしまったのだった。


 ミロッカの能力封印アビリティ・セールドが緩み、格闘センスや過去の記憶が戻りつつあるネル・フィード。だが、昨晩の夢は彼の意識の奥の奥。まだまだ取り戻せてはいない記憶のようだ。


 起床したネル・フィードは静かに1階のリビングへと降りていった。そこには既に、缶コーヒーと煙草を味わうペッケの姿があった。


「おはよう。ネル君」


「おはようございます。ペッケさんもお早いですね」


「年寄りは基本的に早起きな生き物じゃ。ちなみに新しいニュースはまだやっておらんよ。ゾンビのことばかりやっておる」


「そうですか、ありがとうございます。顔、洗ってきます」


 セレンの言っていた素敵なニュース。それがじきに判明する。ネル・フィードは歯を磨き、顔を洗うと、寝癖を取るために水道水に頭を突っ込んだ。


 冷たい水が、頭を冷やしながら顔を伝い、流れ落ちていく。その瞬間、ネル・フィードの頭の中に浮かんだのはセレンだった。


(ひんやりとした無色透明なこの感覚。昨日セレンから感じた力に近い。水が奴の能力に関係しているのか?)


 ネル・フィードはタオルを手に取り、顔と頭を無造作に拭いた。リビングに戻り、ペッケと共に缶コーヒーを飲みながらニュースに目を凝らす。


 ゾンビはここバドミールハイムだけではなく、時間差で首都ルベリン、さらにヴィルデンローゼの合わせて3つの都市で確認されていた。


 それぞれの都市に永遠のレディードールが配備されていたのだろう。ディストピア創世に向け、人類に叩きつけられた死刑宣告にも似た圧倒的恐怖。


 ディーツ政府は軍隊の出動を決定。本日中にゾンビ掃討作戦を決行する。国の威信に懸けても凶暴なゾンビたちを国外に拡散させる訳にはいかない。国境は既に完全封鎖されていた。


「ゾンビなんぞ、屈強なディーツの軍隊にかかれば一網打尽じゃろう!」


「ペッケさん、それは並のゾンビなら……ですよ」


「ほへ?」


「メルデスの能力でゾンビにされた子たちには、しっかりとした意思がありました。身体能力も爆発的に向上している可能性が高いんです」


「なんじゃと?」


「彼女たちにかかれば、さしもの軍隊も崩壊しかねない。それほどまでに悪魔の力とは強大なんです」


「そ、そりゃ大変じゃ!」


 ネル・フィードの言う通り、永遠のレディードールは単なるメルデスのアダルトグッズではない。永遠屍不滅死ゾンビバレンス・エターナルにより生み出された、驚異的なパワーとスピードを兼ね備えたスーパーゾンビちゃんたちなのだ。


 時刻は午前7時を迎えた。ニュースの司会者の顔が青ざめる。


『ここで速報が入りました!!』


「なんじゃ!?」


「こ、これは!?」


 セレンの言っていた素敵なニュースの正体が、ついに報じられる。









⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️


最新話、お読みいただきありがとうございます😊


残酷のネル・フィードはこれにてお休みさせて頂きます😭


2025年1月5日から再開いたしますので楽しみに待っていて下さいね🤗


えくれあ♡

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