第491話 ミロッカイズム

 エルフリーナ。彼女はその魔力を帯びた美しい容姿で数々の男たちを虜にしてきたヤヴァい闇の能力者。


 恋する乙女アイリッサは、そんな彼女と想い人であるネル・フィードとの間に、妙な親密ぶりを感じていた。ふたりの戦いとは一体どのようなものだったのか? さらに、


『ゼロさんのやっぱりすごーいっ!』


 の真相とはなんなのか?


 そんなふたりに疑惑の視線を向けるたび、心に重苦しいなにかが堆積たいせきしていく。恋心が冷めていく。アイリッサはネル・フィードへの大切な気持ちを取り戻す為、あえてイバラの道へ足を踏み入れる覚悟を決めた。


 ガチャ……


 素顔すっぴんの戦姫アイリッサは、バスルームのドアを開けた。そこには、雑誌やテレビでしか見たことのない美女体びにょたいが気持ちよさそうに湯船に浮いていた。


「お待たせ」


『お姉たま、スタイル抜群♡』


「やめてよ。リーナに言われても、恥ずかしくなるだけ」


 そう言って、アイリッサはシャワーの蛇口を捻った。


 シャアァァァァ─────!


 ネル・フィードへの想いは確かに小さくなっていた。でも消えたわけではない。消せるわけもない。ふたりがなにかを隠しているような言動を感じるたびにイライラが募った。


 濡れた髪をかき上げ、アイリッサはバスチェアに座って湯船の中のエルフリーナと向かい合った。中身がミロッカのエロリーナとも知らずに。


『お姉たま、どうしたの?』


「私はネルさんが好き」


『えっ!?』

(なんだ急にぷひーのやつ……)


「私は分かってるよ。リーナもネルさんのことが好きでしょ?」


『い、いきなり、どおしたの?』

(確かに、こいつの意識の中にもネルってやつを好きな感情がある。なんでゼロさんって呼んでるかも探ったしな)


「正直に言って。リーナはネルさんとエッチなことした?」


『ちょっと、お姉たま……!』

(なるほど。そういうモードなわけか)


「大丈夫だから。教えて」


『んと……えっと』

(マギラバ、こいつとばっちりエッチなことしまくってんな。でもこの記憶じゃ私的には萌えないわ。マギラバの姿でやってくれてたらよかったのに♡)


 ミロッカはマギラバが他の女とエッチしたぐらいでは動じない筋金入りの変態なのだ。逆にモテモテのマギラバじゃないと嫌なのだ。


「ちゃんと答えて。じゃないと私、リーナのこと嫌いになる」


『お姉たま……』

(だりー女。好きな男が何股しようが、女のうんこ食うド変態だろうが、猟奇的殺人犯だろうが関係なくね? ぷひー、お前のマインドはザコ過ぎるぞ)


 見た目がしょぼいネル・フィードでもモテまくってしまうマギラバの魅力にエロリーナは改めて感心し、惚れ直していた。


「したの? してないの? そこんとこハッキリして欲しい」


『えっと……』

(めんどくさ。ミロッカイズムをこの女にも叩き込んでやるか。どうせマギラバは腐神を片したら別のミューバに移動する。ぷひーの恋もそこまでだしね)


「リーナ、お願い!」


 ひとまず、エロリーナはエルフリーナの記憶を辿りながら、正直に話すところから始めることにした。


『お姉たま。そんなにゼロさんのことが好きなの? 本気で言ってる?』


「え? ほ、本気だよ!」


『分かったよ。なら全部話すね』


「うん……」


『私、ゼロさんとエッチなことした。先にイッた方が負けって勝負をした』


「……!! や、やっぱり!」


『でも、最後まではしてない』


「え?」


『ゼロさんは私とのSEXを拒否した』


「そ、そうだったの?」


『うん。ゼロさんは私のことは愛してないからSEXはしないって言ったの』

(マギラバ、最初はやる気満々だったけど、こいつの生い立ちを聞いて、さすがにできんくなったみたいだね。いい男だわぁ♡)


「そうなんだ……」


『お姉たまの言う通り、私はゼロさんのことが好きだよ』


「うん……」


『だから私はSEXをしてくれないゼロさんに猛烈な怒りが込み上げた。本気で殺そうと襲いかかった』


「そ、それで?」


『そこでエルフリーナの変身が勝手に解けたの。やっぱり、好きな人を殺すことなんて、できなかった』


「そっか……」


『変身の解けた私に、ゼロさんは本名や年齢、好きな物、いろいろ話してくれた。私も好きな物の話をしたの。ウサビッチとか……』


「うん……」


『そこにお姉たまが戻ってきた。これがコットンラビッツであったこと。嘘はなにもないよ』


「分かった。ありがとね、リーナ」


 ここからエロリーナは話を別の方向へシフトさせていく。


『ところでお姉たまはさ、ゼロさんが本当にエクソシストって思ってる?』


「え? だ、だって、あんな強くて、悪魔と戦えるって、それしか……」


『仮にだよ。ゼロさんが宇宙人だったとしても、お姉たまは好きでいられるのかな?』


「宇宙人っ?」


『そそ。エクソシストが使うにしてはおかしいと思わない? あの力』


「ええっと。確かに。真っ黒い霧のような、オーラのような……」


『だよね? 私たち、騙されているのかも知れないよ。いい人のフリして本当はゼロさんが世界を征服しようとしてるのかも。それにはパウルが邪魔なだけ。そう思わない?』


「か、仮に宇宙人で、世界を征服しようとしてたとしても、私はネルさんが好き。変えてみせる!」


『へえ。すごい自信』

(ほんまかいな。ビビってぷひーって言いながら逃げそうなもんだけど)


「わ、私も天使の力とか言ってるけど、まったく訳が分からないで使ってるし、実際のところなんなのか分かったもんじゃない……」


『お姉たまの天使の力も、私たちの悪魔の力も、謎が多いのは確かだね』

(私はそれが知りたいのよ。こいつらの力は謎すぎる。ミューバのくせに!)


「私はネルさんをできる限りサポートする。パウルの好きにはさせない!」


『お姉たまの気持ち、よく分かったよ。私はゼロさんのことが好きだけど、残された時間は少ないから』


「……そうだったね」


『生まれて初めて本気で人を好きになれただけで、私は幸せだと思ってる。だから、お姉たまの恋を応援してる』


「リーナ……」


『ただし……!』


「え?」


『くだらない理由でゼロさんを傷つけたら許さない。宇宙人だろうが、悪人だろうが、変態だろうが、ずっと好きでいなきゃだめ。私はゼロさんがお姉たまのうんこ食べても好きだよ。適当な好きは許さない。約束だからね』


「は、はい……!」

(う、うんこっ!? マジで?)


 今までのエルフリーナにはない気迫に、アイリッサは度肝を抜かれた。中身があのミロッカなのだから仕方がない。


 ちゃぽん


『お姉たまのおっぱい、小さくてかわいい♡ 乳首も超エロいよねぇん♡』


 ちょい♡ ちょい♡


 ぷるるん♡


「あはは……ありがとうございます」


 アイリッサの胸のつかえはひとまず取れた。その代わり、新たなプレッシャーが小さなお胸にのしかかったのだった。

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