第155話 お天気お姉さんのスープ

 TK都、みかど区。


 そこに高さ257mのエリンギヒルズ源平げんぺいタワーはある。そこには流行りのショップや人気のレストラン、イベントスペースに映画館、ミュージアムに展望台。それに金融、IT、メディアなどの有名企業も多数入っていて、結婚式場を備えたホテルも人気なんだ。いつか黒宮と泊まりに来たいって牙皇子様がさっき話してくれた。


 俺はズボンのポケットからスマホを取り出し、時刻を確認した。


『牙皇子様、あと5分で22時になりますね。ゲロゲロッ!』


『そう、じゃあトップニュースのVが流れたあたりで突入しようか。スマホで報道天国見といて』


『分かりました。ゲロッ!』


 俺はスマホの画面をテレビ朝霧に切り替え、放送開始を待った。エリンギヒルズの屋上から見下ろすTK都の夜景が、やたら煌びやかだった。


 あの明かりの中に勝ち組と呼ばれる人間が大勢いるわけだ。美味いもん食って、可愛い女の子とエッチして、いい家住んで、幸せで。


 でもその幸せも今日までなんだぜ。ヘラヘラ笑って暮らせるのも、気持ちいいことできるのも、贅沢できるのもなっ!


 今からゼロワールドが世界を震撼させる。永遠の方舟信者以外は平等に、横一列に、死が待っている。


 


 俺は百合島杏子に殺されかけ、足を失った。そして、その百合島杏子に神の力をもらい、今では見た目もカエルのフロッグマン。


 人生に嫌気がさしていたのも事実。死ねるならさっさと死にたいとさえ考えていた時期もあった。


 自分は『人生の負け組』だと思っていた。世の中、足がなかろうが、手がなからろうが、目が見えなかろうが、知的障害だろうが、幸せに生きている人間が沢山いるだろって?


 俺は、そういうのまっぴらなんだ。


 足がない人生に俺の幸せはない。価値がないんだよ。苦労、苦痛、屈辱。障害は3Kなんだ。


 障がい者全員が『健常者になんてなりたくない』なんて思ってると思うか? そう思ってるならお前の頭は余程どうかしてるぜ。障がい者の誰もが健常者になりたいと思ってんだよ。


 お前ら健常者が、憧れのモデルやスポーツ選手、小説家になりたいって思うレベルで健常者になりたいんだよ。


 俺は障がい者のまま生きるよりもフロッグマンになった今の方が幸せを感じている。百合島杏子、牙皇子様への気持ちは複雑と言えば複雑なものがある。


 だが、俺はいま猛烈に感謝している。この力を俺にくれたことを!


 エリンギヒルズの屋上から見下ろすと、下の公園にお天気お姉さんの『伊藤なつみ』がいた。


『あれ、そうなんじゃないの?』


 牙皇子様も気づいた。


『そうですね。ゲロッ!』


『行ってきなよ。が永遠の方舟の信者なわけないし、サクッと食べてきていいよ』


 牙皇子様のその言葉に、俺は興奮を抑えきれなかった。憧れのお天気お姉さんを食べる。脳は支配されてはいないものの、俺の中に流れる腐神の血液はその速さを増し、俺の息づかいを荒くした。


『すぐに戻ります。ゲロゲロッ!』


 バッ!


 俺は心臓バクバクで、談笑する伊藤なつみに向かって降下した。










「そうなんですよー、3日前の旅行で結構歩いて〜、その時の筋肉痛が『今』ですよっ! 信じられなーい! まだ私28歳なのにぃ!」


「あはははっ」


「もう、なつみちゃんも『おばさん』ってことじゃない?」


「やめてくださいよーもうっ!」






 ドスンッ!



 その中に俺は着地。



 伊藤なつみを始め、そこにいたカメラマンや照明などの機材を持った男たちが、俺を見て固まっている。




 まずは確認だ。




『お前たちは永遠の方舟の信者か? ゲロゲロッ!』


「ち、違いますッ!」


「お、俺も……」


「知りませんッ!」


「た、助けて!」


『お前たち、廃棄だ。ゲロッ!』



 ズドンッ!! ドカンッ!


 バキィッ! ドォンッ!


 俺はまず、男どもを血祭りにした。


 ブシャアッ!


『ふう。ゲロッ!』


 あとはなつみちゃんだ♡ あれ? 腰が抜けちゃってるよ。ありゃありゃ。ストッキング越しのピンクのパンツがエロい、エロ過ぎるッ!


「いやあっ! ああっ……!」


 俺から逃げようとしてる。なんて無様で可愛い姿なんだ。そんなタイトなエロいスカート履くから、ケツの形が丸分かりでたまんねぇよ。


『まったくよぉ! ゲロッ!』


 俺は逃げようとする伊藤なつみの足首を掴んで持ち上げた。



 グイイッ!



「キャアァァ─────ッ!!」



『悲鳴もかわいい♡ ゲロッ!』


 俺は伊藤なつみを自分の前に立たせるように、ゆっくりと下ろした。


 向かい合う、俺と伊藤なつみ。


 恐怖に歪んでいるけど、やっぱめちゃくちゃ可愛い顔してるな♡ スタイルも痩せすぎではなく、ムチムチのいい肉付きの体だ。


 この人を俺は今から喰べる。


 ヨロッ!


『おっとっと!』


 俺は気を失いかけて、よろめく彼女の肩を両手で支え、抱きしめた。


(や、柔らかいッ! いい匂い! も、もうダメだ。我慢の限界ッ!)


『たまんねぇっ! ゲロオオオォォッ!』


 ガブッ!


 俺は頭から伊藤なつみにかぶりついた。


 ブシュウゥッッ!!


 胴体から頭を喰いちぎった。


 モグモグ……モグモグッ!


 俺の口の中に、伊藤なつみのスープの味が広がる。な、なんてフルーティーなんだ! 今まで喰ってきた女とはものが違うッ!


 俺はその後も、伊藤なつみの服を引きちぎって裸にし、全身を舐めまわし、隅々まで味わい尽くした。肉も内臓もどこも柔らかくって美味しかった。食欲と性欲をいっぺんに満たす。フロッグマンにならなければ得られなかった快楽だろう。


 

『はあっ、はあっ、ヤバい! そろそろ報道天国が始まるなぁっ! ゲロッ!』




 ギュンッ!!




 俺は慌てて屋上へ戻った。


『おかえり、フロッグマン。おいしかったぁ?』


『最高でした♡ ゲロッ!』



 時刻は午後22時になった。ついに報道天国が始まった。お天気お姉さんが喰われたことも知らずに。



『こんばんは。7月5日の報道天国です。今夜は……』




『始まったね』

 

『ゲロゲロッ!』



 エリンギヒルズ屋上、夏の夜風があまりにも心地良かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る