第263話 僕の美しい世界

 その紙を持つ手が震える。


 悪魔の力、驚いた。でも、永遠の命。そっちの方に、僕の気持ちは完全に持っていかれた。


『18日後に死ぬ』


 そんなのはまっぴらごめんだ。僕はまだ19歳。やりたい事は山ほどある。童貞だし。


 とはいえ、僕は騙されているんじゃないのか? 


「あ、悪魔ですか。それは僕が美しいと思うものの1つです。に気づいた貴方の言う事ですから、完全に否定はしたくはない。でも実際に存在するんですか? 悪魔の力、永遠の命だなんて。漫画みたいだ」


 そんな僕を見透かすように、エルリッヒさんは話を進めていく。


「その紙に書かれた場所に行けばすべて分かる。に会い、話をすれば、疑問も疑念も払拭されるだろう」


「あの方?」


「我々に力を与えて下さるお方だ。その方の思想や理念に賛同できなければ、無理に力を得る必要はない。18日後に待つ死と向き合いながら、残りの時間を有意義に過ごせばいい」


「そ、それは……」


「君の理想的な美しい世界。それがディストピアにはあるだろう」


「僕の美しい世界……」


「君は実に運がいい。それじゃあ」


 エルリッヒさんは、近くに停まっていた車の助手席に乗り込んだ。運転席の女の人がやけに綺麗だった。


 ブロロロロロロッ! ブオォンッ!


 キキィッ!


 ブウウウウゥゥッンッ!!


 だけど、運転は荒そうだった。



『僕の美しい世界』


 ずっと、抑圧された人生だった。


 が、何にも縛られる事なく生きていける世界を創生する。僕の可憐と一緒に、か。悪くない。


 エルリッヒさんを見る限り、特に悪魔の力を得たからといって、見た目の変化や粗暴さがある様には感じ取れなかった。


 僕は決めた。


「行ってやるよッ! 可憐が誕生したここからが、僕の本当の人生の始まりなんだッ! ここで死んでたまるかッ!」







🌙




「で、あなたは悪魔の力をパウル・ヴァッサーマンから授かったという訳ですか」


「授かったねぇ。素晴らしい気分だよ。死の恐怖もなく、誰の目も気にする事なく、道端のうんこだって描けちゃうんだッ!」

(こいつ、パウル様の事まで知ってんのかよ)


 そういうと、小濱宗治はボディバックから何かを取り出し、ムシャムシャと食べ出した。


 それは黒く艶があり、ネル・フィードには謎の物体に見えた。


「ヒャッハー☆ そんな目で見るなよ。さすがにこれはうんこじゃないぜ。羊羹ようかんっていうジャポンの菓子だ」


「よ、ようかん……?」

(悪魔の力を増幅させるアイテムじゃあるまいなッ!?)


「あはははッ! あんた結構 臆病者だなっ! 羊羹は俺にとってサプリみてーなもんだ。これから始まる『アートの時間』の為の栄養補給さ」


「アートの時間?」


「そうさ。このインフィニット・ステアケースの中では、僕の想像したものは具現化できるっ!」


「なんだとっ!?」


「だから言っただろッ? この中では僕が最強だってッ! 結局のところアンタは何者なんだよ? 僕を助けるとか、エルリッヒさんの事もパウル様の事まで知ってやがる! 答えろよッ!」



 ブシュウッ! ブオオオッ!


 ネル・フィードは、ダークマターを放出ッ! 見た目がマギラバになるッ!


『私は、エクソシストですよ!』


「ヒャッハー☆ あんたなかなかじゃないかッ!!」


 ネル・フィードは、小濱宗治を救い、この異空間から脱出できるのか?


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