第288話 プリティーでキュアキュア♡

 ぶしゅううううううっ!!


「うがっ、うがはあっ……!」


「あかりんさぁーんっ!!」


 ネル・フィードの眼前で、ホラーバッハの覇蛇壊滅撃バジリスク・ディストラクションの牙に頸動脈を深くえぐられたみちのあかりっ!これはもう出血多量による死から逃れる事は不可避っ!


 と、思ったその時ッ!!


 天使は軽やかに舞い降りたっ!


「てぇーいっ! エンジェル・プリティー・キュアキュア───ッ!!」


 ピカァッ!!


 シュルルルルルルルルルッ!!


 適当な事を叫んでかざしたアイリッサの掌から、無数の光り輝く糸が勢いよく飛び出した!


 そしてそれは、みちのあかりの首の裂傷を光速で縫合。死、確定の出血は嘘のようにピタリと止まった!


 とはいえ、頸動脈からの出血。みちのあかりは一瞬にして気を失い、その場に膝から崩れ落ちた。ネル・フィードは倒れるみちのあかりのバイタルを即座に確認。命に別状はない。


「アイリッサさん! こ、こんなことまでできるんですか!?」


「なんとなく、プリティーでキュアキュアなパワーが手のひらに集まってきて飛び出た感じです!」


 アイリッサ本人も驚く天使の力には、まだまだ様々な能力が秘められていそうだ。


 その『光り輝く光景』を目の当たりにしたホラーバッハだったが、そこまで驚いてはいない。


「エンジェルですか。すごいですね。まあ、悪魔もいるんだから、そこまで不思議でもない」


 シュボウッ!


 ホラーバッハは右腕で暴れるバジリクスを引っ込めた。


「ホラーバッハさん。さっきあなたはあかりんさんが嘘をついた、と言っていましたね?」


「あー、僕は嘘をつかれると分かっちゃうんですよ。名前を正直に言わないなんてマナーがなっていないと思いませんか? 歯が疼いてしょうがない」


「彼は仕事で使っている名前を正直に答えただけだ。嘘ではない」


「そうでしたか。それは申し訳なかったですね。あははは」


 アイリッサの能力がなければ、みちのあかりは確実に死んでいた。半笑いで謝るホラーバッハに対し、ネル・フィードは沸々ふつふつと怒りが込み上げた。


「あなたは人を殺すことになんの躊躇ためらいもないのか? 悪魔の力を得る前から、そんな衝動を抱えて生きていたということなのか?」


 ガサガサ……プシュッ!


 ゴク、ゴクッ!


 ホラーバッハはコンビニのビニール袋からエナジードリンク『レッドブルー』を取り出すと、一気に飲み干した。


「ぷはっ、はあっ。だあ。えっとぉ、僕に殺人衝動がどうとかでしたね? ネル・フィードさん」


「そうだ。あなたの自分らしい生き方、それは快楽殺人なのか? と私は聞いている」


 ネル・フィードのその質問に、ホラーバッハは穏やかな口調で悪気なく質問で返した。


「ネル・フィードさん。毎日この国で何人ぐらいが事故で死んでいるか、知っていますか?」

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