第289話 Death Note

 ここプランツで1日に何人が事故で死んでいるのか? ホラーバッハのその血生臭い問いに、ネル・フィードは即答できずにいた。


「まあ、分からないですよね。平均で10人は死んでいるんですよ。今日もどこかで誰かが事故でグシャアッと死んでいるわけです」


「それが、なんだと……?」


「私はですね。毎日事故で死んだ人の名前をノートにつづるのが趣味でしてね。それを書いている時が1番幸せなのです」


「ノートに……?」


「ぶひゃあ……」

(へ、変人や! この人 まじもんの変人や!)


 カチャ


 スッ……


 ホラーバッハはグランロイヤルのビジネスバッグから、1冊の黒いノートを誇らしげに取り出した。


 パラリ


「ほら、こうやって持ち歩いているぐらい僕にとっては大切な物なんです。仕事でミスをして落ち込んだ時、ランチで食べようと思っていたお気に入りのサンドウィッチが売り切れていて悲しい時、香水臭いブス女とエレベーターが一緒になってムカついた時、そんな時はこの『Death Note』を見て気持ちを落ち着かせているんですよ」


 ホラーバッハは愛するDeath Noteをペラペラめくり、ずらりと書き並べられた死者の名前を見ながらニヤニヤと微笑んでいる。


「事故死した人たちの名前を綴ったノートを見て心が落ち着く、ね」


 パタンッ、カチャ!


 ホラーバッハはDeath Noteをゆっくりと鞄にしまい、残りのレッドブルーを一気に飲み干すと、靴の踵で思い切り空き缶を踏み潰した。


 パキャンッ!


「全身を強く打って死亡。ニュースでよく聞くこのフレーズのを、ネル・フィードさんはご存知ですか?」


「またの質問ですか。確かにニュースで耳にはしますが、その通りの意味としか思ったことはないですね」


 ガサガサッ!


 プシュッ!


 ゴクリッ!


 ホラーバッハはビニール袋から2本目のレッドブルーを取り出し、一口飲んだ。


「それはいけない。ネル・フィードさん、それはいけないですよ。知っておくべきだ。いいですか? ニュースで言う『全身を強く打って死亡』とは、人体が原形を留めていない程に破損して死んでいる状態のことを言うんですよ」


「原形を、留めないだと?」


「うぷぅ……」

(黒翼のリーマン、やっぱりヤベェ奴だった。人の死を語る時の目、バッキバキやん!)


「ハッキリ言ってしまえばですよ。私は事故で死んだ人をニュースや新聞の記事で見ると、生きてるって実感できるんです。生きる力が湧いてくるんですよ!」


 ホラーバッハはバッキバキの瞳でふたりを見ながら、本日2本目のレッドブルーをすべて体内へ落とし切った。


「ぷっはあっ! 今夜も美しい黒い翼が、僕に授けられそうだぁ……」

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