第182話 ケジメ
『ゼロワールド』
それは、百合島杏子が天使イバラに嫉妬した事から始まった。手にした残酷神の力を使って『藤花への愛』と称し、手下の腐神も使い人々を次々と殺傷していった。
ブラック・ナイチンゲールに自分がいたことにより、いち早く杏子の暴走を食い止めることができたとはいえ、既に被害は拡大。そんな中、美咲の命は腐神により奪われてしまったのだ。
『私のせい』
藤花は自分の頭の中で、そう連呼していた。あんなに時間を共にしていたのにもかかわらず、杏子のことをまるで分かっていなかった。自己嫌悪の波に飲み込まれ、溺れる寸前だった。
「はあっ、はあっ、はあ、風原さん、ごめんなさいっ、全部私のっ……」
「黒宮さん? どうしたんですかっ!?」
正男は藤花の顔色の悪い苦しそうな表情を見て慌てて声をかけた。
「藤花!」
事情を知る真珠も、すかさず藤花が倒れないように両手で肩を支えた。
「分かりましたから、とにかく部屋へ行きましょう。横になって下さい!」
藤花は正男の敷いた布団に横になると、気を失ったように寝てしまった。
「西岡さん、刀雷寺でなにが? とてつもないことが起きたというのは想像つきますが……」
『とてつもないこと』
起きた。起きすぎた。なにから話せばいいのか混乱するほどだ。真珠はそんな状態になりながらも必死に今日起きた一部始終を正男に話すことにした。
「アンティー。あなたが人格者だと信じて、話すよ」
正男は真珠の目を見て、ゆっくりと頷いた。
「分かりました」
腐神、斬咲とエクレアとの死闘
牙皇子狂魔の正体
ゼロワールドの本当の目的
イバラの腐神化
アウトオブカテゴリーの存在
正男の目には再び、うっすらと涙が滲んでいた。愛娘の死、それだけではない。陣平の命をかけた戦いぶり、イバラの壮絶な最期。そして、親友の暴挙により傷つき、消耗した藤花の姿にだった。
「そういうことでしたか。本当に凄まじい戦いだったのですね。黒宮さんも、あまり自分を責めないでもらいたい……」
「ありがとう、アンティー。藤花が起きたら、そう言ってあげて」
「はい。それにしてもカレーを作るのに一生懸命で気づきませんでした。ピラミッドが破壊されたなんて……」
「アウトオブカテゴリーの力、とてつもないのよ。とても、私や藤花では太刀打ちできない……」
「残酷神すら掌握できない力か……」
「残酷神、百合島杏子が自分のしてしまったことの後始末をすると言っていたよ。フロッグマンと一緒にね」
「そうですか。今は、残酷神頼みということなんですね。皮肉なものです」
暫くして、藤花が目を覚ました。正男は優しく声をかけた。
「黒宮さん、大丈夫ですか?」
「はい。すみません。すべて私の友人の百合島杏子がしてしまったことです。きっかけも自分です。私が悪いんです……」
「黒宮さん、自分を責めてはいけない。しかもその理屈でいくと、天使さんが悪者になってしまうんだ」
「えっ……?」
「だってそうだろ? そんなこと言ったら天使さんが満開のSAKURAや自分のことをネットに載せたからいけないんじゃないか」
「そ、そんなことっ……」
「君はたまたま見つけた天使さんのファンになった。それのなにが悪いんだい?」
「で、でもっ! それがきっかけで杏子ちゃんは嫉妬に狂って……」
「そうだ。百合島さんの『それ』がいけなかったんだ。彼女は分かってる。だから自分ひとりで方をつけようとしているんだよ」
「藤花、あんたはなにも悪いことはしていない。分かった?」
「でも、責任感じちゃいますよ。はぁ……」
「2人とも、よければ美咲の為に作ったカツカレー。食べてって下さいね」
「そうだね……」
「はい……いただきます」
とある都市のオフィスビル最上階
元・ゼロワールドの本拠地
『はあっ! はあっ! はぁぅ! ネ、ネル! 今、何%なの?』
『今に90%。今日はこのぐらいにしておけ。杏子、意識が飛ぶぞ』
『で、でも、急がないとっ……!』
急速に残酷神の力を上げた杏子の体は、正に悪魔のそれに近づいてしまっていた。頭には
『杏子。もう姿を気にしないということは、あの腐神と共に死ぬ気だな?』
『ごめんね、ネル。これが杏子ちゃんの生き様なのよ。はあっ! はぁ!』
『あはははッ! 最後に思い切り暴れるとするかッ!』
キンコンッ! キンコンッ!
キンコンッ! キンコンッ!
フロッグマンのスマホが鳴るッ!
『ま、まただ、ゲロッ!』
『世界遺産、サグラダ・ファミリア破壊される! ピラミッドに続き2件目っ!』
亜堕無と威無、日本訪問まであと1週間。
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