第4章 力ある者
第20話 爆発
「風原さん、少しだけ時間を下さい。いいですか?」
「分かりました。黒宮さんのタイミングで構いませんよ」
藤花はゆっくりと目を閉じた。
「ふう……」
(方舟様。杏子ちゃんをなんで助けてもらえなかったのしょうか。私はとても苦しかったです)
(そして、方舟様の神棚を壊してしまいました。私にとっての『すべて』を失い、私も死のうとしました)
(そこでイバラちゃんに助けられて今に至ります。これはすべて方舟様のお導きなのですか? ゼロワールドの出現も分かってらっしゃったのですか?)
(私に余命3か月を与えたのもこの為だったのですか? 杏子ちゃんを殺されたとはいえ、あんな怪物相手とはいえ、私の中には殺意が芽生えています)
(こんな私は『
(見放されても仕方ありません。覚悟はできています。でも、私はこれもすべて方舟様のお導きと信じています。これからもずっとずっと、信じています。
藤花は目を開けた。
そして、右手をスッとアンティキティラの前に差し出した。その顔に先程までの怯えや罪悪感はない。
「いいんですね?」
「はい! お願いします!」
「では、いきますよ!」
ギュ……!
アンティキティラは藤花の手を握った。
「んっ!」
既にアンティキティラの右手には熱があるように感じた。
ガチンッ!
ギリギリギリギリギリギリ
ガタガタガタガタッ!!
「回り出したっ!」
「うん、激しいっ!」
歯車の回転が腕の上部から、徐々に藤花に近づいていく。それは、例の全宇宙の力を持ってしても動かせないという100枚目の歯車が、藤花に力を与えるためにだけに回ろうとしているかのような光景だった。
「さあっ! 黒宮さんの残りの
ギリギリギリギリッ!!
(来るッ!!)
ボボォンッッッ!!!
ボウウッッ!!
「私の時より炎がおっきいっ!!」
「激しく、うわぁっっ!!」
イバラと美咲は、藤花を包む炎のあまりの大きさに驚いた。
シュウウウウウ!!
藤花の長い髪は血の様な赤に変化。包む炎は妖しくも美しい、紫色に燃え上がった。
「す、すごい! 熱い! 気持ちいい。な、なにも怖くない! 死ぬことさえも……!」
ブシュウゥウゥゥゥッ!!
藤花を包む紫色の炎が、体内に吸収されていく。それと同時に、舞い上がる様に
「アンティキティラの力ってこんなにすごいのっ? 今なら誰にも負ける気がしない。あのカエル野郎にも!」
「それ分かる。マジで最初、制御が難しかったもん」
「激しく同意」
「本当にそんな感じだよ。体が暴れたがってる、みたいな?」
「藤花、ここで暴れちゃダメよー! ダメダメーっ!」
「激しく同意っーーー!!」
「ええやないのー♡ って、うそうそ。あれ? でも、なんか目がぼやけてる……」
「黒宮さん、たぶん視力もかなり回復しているはずです。眼鏡を外すといい」
「分かりました」
藤花は愛用の金縁眼鏡を外した。
「うわっ! 見えすぎるぐらい見えます! 畳の目地ひとつひとつ数えられます! いち、にぃ、さん……」
「ぷっ! 藤花、やめーいっ!」
藤花のパワーアップに安堵していたアンティキティラだったが、急激に顔色が悪くなり始めた。
「ぶ、無事に、黒宮さんに力を与えられて……よ、よかったです……」
「正男さんッ! どうしたのっ?」
「お父さんっ!?」
「うっ、うわぁぁぁああっ!!」
ガラガラッ! ガコンッ!
バラバラ、ガシャンッ!
「えっ?」
「はいっ?」
「うそ?」
3人は驚いた。
なぜなら、アンティキティラの歯車のタトゥーが音を立てて右腕からすべて崩れ落ち、消えてしまったからだ。
「こ、これって? もう、誰にも力を与えられないってこと、よね?」
「は、激しく、壊れたね」
「わ、私のせいですかーっ!?」
歯車のタトゥーが消えた今、ゼロワールド相手に仲間の増員は見込めない。藤花は大きな期待を込めて、美咲に問いかけた。
「お聞きします。私たち3人以外に、アンティキティラの力を持ってる人って何人いるのかな……?」
「あと、ふたりです」
「そ、そうなんだ」
(腐った神を相手に 5 対 5 。でも、あっちはまだ増える可能性あるよね?)
「たぶん、5人までがこの歯車の限界だったのでしょう……」
「考えててもしょうがない。5人で気合いを入れて、腐神をやっつけちゃおっ!」
イバラの元気でかわいい声に癒されながら、藤花はドキドキでふたりの仲間について聞く。
「美咲ちゃん、あとのふたりって……どんな人なの?」
「えーとですね。主婦の西岡さん、35歳。それとエロジジイ、74歳です」
「えっ?」
(主婦とエロジジイっ?)
「藤花、私たちみたいな十代だと思ってたんでしょ?」
「勝手にそう思ってたけど、余命が短い人って、別に10代に限らないもんね」
「なんとなく10代だと、悲劇のヒロイン感が出て、かっこはいいかもだけどねーっ!」
「そ、それよりも、なによりも、『エロジジイ』っていうのが、私的には非常に気になるんだけどぉ……」
一抹の不安を覚える藤花であった。
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