第331話 姿なき惨劇

「アイリッサさん。待ってましたよ」


「お待たせしました」


 ネル・フィードとアイリッサはバドミールハイム駅で合流して、とある場所を目指して歩き出した。


「しかし、驚きましたよ。いきなり電話で『死んじゃった』って言われた時は……」


「すみません。完全に気が動転していたというか。私、かなりのカーター君ファンだったので信じられなくて」


「私も昨晩見てみたんですよ。ポンコッツチャンネル……」


「ほ、本当ですか!?」


「うん。面白かったよ」


「ですよね? ネルさん、教えてください。カーター君になにが起きたのか。次の闇の能力者って一体何者なんですか?」


 ネル・フィードはアイリッサの無念を察し、正直にすべてを話すことにした。


「次の闇の能力者と思われる人物。名はエルフリーナ。闇ドラッグ『エチエチ』の売人。さらにネカフェ売春で男たちを誘惑し、殺人を犯す女です」


「あのエチエチの売人で、ネ、ネカフェ売春!?」


「昨晩、私はハイドライドさんと一緒に満場エッチというアプリを使い、エルフリーナと会う約束をとりつけたんです」


「満場エッチ? 明らかに如何いかがわしいやつじゃないですか!」


「それしかエルフリーナに会う方法はないんですよ。なので仕方がなかったんです……」


「そ、そうなんだ。で、でも別にネルさんがそのエルフリーナって人とエッチするわけじゃないですもんね?」


「もちろんですよ。そのエルフリーナとエッチしたせいで、情報屋のじょえさんの仲間の3人とカーター君は死んでしまったのだと思います」


「次の敵は女の色気か……ネルさんはまーったくエロくないから大丈夫でしょうねっ!」

(昨日の私のお尻にも大した反応を示してなかったようだしー! ふんっ!)


「任せて下さい。誘惑なんてされない自信がありますよっ!」

(俺がまったくエロくない? アイリッサは俺の事をなんだと思ってるんだ? 一応男だぞっ! 君のお尻にだって昨日は……はあ♡)


 ピロピロッ! ピロピロッ!


 ネル・フィードのスマホにハイドライドからの着信が入った。


「ハイドライドさん、すみません! こっちから電話しようと思っていたところです」


『と、いう事は?』


「エルフリーナ……確定です!」


『よかった……きっと大丈夫だと思っていましたよ!』


「それの確認ですか?」


『それもあったんすけど、エルフリーナについての追加情報がじょえから来たっす!』


「本当ですか? 助かります」


『実は3日前に警察が囮捜査おとりそうさでネカフェに突入したって事があったらしいんすよ』


「囮捜査……そんな事が……」


『エルフリーナとの約束の時間にそのネカフェに入り、部屋番号を送信。3人の私服警察官が部屋でエルフリーナが来るのを待ってたっす』


「ネカフェでは逃げ場はないですからね……容易に確保できると思っていたのでしょうね。それがだったのなら! ってとこでしょうか?」


『正にその通り……ネカフェの出入り口は完全に封鎖。そしてついに私服警察官の待つ個室のドアをノックする音がしたらしいんす……』


「ど、どうなってしまったのですか? その3人の警察官は……」


『それがですよ……ドアを開けたら……』


「あ、開けたら……?」


『そこには誰もいなかったらしいんすよ!』


「え? ノックまでしてるのに?」


『はい……ですがっ……』


「ま、まさかっ……!?」


『その直後っす……3人の私服警察官の首が飛んだっす……惨劇の現場だったらしいっす……』


「姿がなく……首を切るだと?」


『兄貴……それは多分、ヴァルギナの送ってきた警告を無視したからなんすよ!』


「警告? あっ……あれかっ!」


 ネル・フィードはヴァルギナから送られてきたエルフリーナ確定のメッセージを思い出した。







【エルフリーナとの素敵な時間をお過ごしください。尚、別人物及び、連れの方がいらした場合は、今回のお約束は無効とさせて頂きます。ご了承下さい】







「警告……ありましたね。『1人で来い』という事ですね。それにしても瞬殺とは……」


『警察でしたからね……余計にエルフリーナの逆鱗げきりんに触れたのかも知れませんよ。なので現在警察も手を出しあぐねているらしいっす』


「分かりました。まずはきちんと約束を守り、会わなければいけませんね」

(エルフリーナ、これはもう闇の能力者で間違いないッ!)


 エルフリーナの姿なき殺人の謎。ネル・フィードの緊張は高まるっ!

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