第246話 苦手なタイプ
ネル・フィードは、アトラクションを楽しむ子供のような気持ちで、メルデス神父の待つ礼拝堂へ向かった。
(昼間見たメルデスの目には、人を殺したことのある闇が宿っていた。アイリッサやマレッドはメルデスを人格者だと言っているが、俺は騙されん。まずは十分に詭弁を堪能させてもらうとするか)
7時ジャスト。礼拝堂に到着。入口の扉を開ける。
キィィイ……
「こんばんは。お待ちしていましたよ、ネル・フィードさん。ぴったり7時だ。時間に正確なのですね。素晴らしい」
早速、笑顔のメルデス神父が迷える子羊ネル・フィードを出迎えた。
「こんばんは。普段は5分前行動を心掛けているのですが、少しばかり寝過ごしてしまいまして、逆にお待たせしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ。さっ、どうぞ」
(神経質そ〜。怖っ! やっぱり僕ちゃんの苦手なタイプだ……)
メルデス神父は用意した椅子にネル・フィードを座らせ、自分も向かい合って座り、語りかけた。
「神の存在意義についてでしたね?」
(あー、どーでもいい。そんなの自分で考えてちょ)
「そうです。お忙しいのに覚えててくれたんですね。嬉しいです」
「もちろんですよ。たいへん有意義な時間が過ごせそうですね!」
(早く帰りてぇ。男と2人きりで話すなんて野良犬の
ネル・フィードは、メルデス神父の化けの皮を剥がす作業に取り掛かる。
「神父。神とはなんでしょう?」
「お! シンプルでいい質問ですね」
(初っ端から1番めんどいの来たやーん!)
「私は神は不必要だと思う人間なのです。お願いします」
「なるほど。まず『神はなんなのか?』その問いにお答えしましょう。そもそも神は目には見えない。それを信じろというのがなかなか難しいことなのです」
「見えないのをいいことに、宗教は神で脅し、神で騙す。そして信者は神で狂わされる。そんな人生を歩まされている人間が少なくはないと思うのですが……」
「中にはそんなカルトがあるのも事実。それは聖者として重く受け止めています。ですが、私はこう考えます。そのようにつけこまれる人間は、実際のところ神の存在などどうでもいいのではないかと」
「神はどうでもいい?」
「つけこまれる人間の大半は、単に寂しさを紛らわす、いっときの安心感を求めてしまう者が多いのです」
「安心、それを神に求めてはいけないのですか?」
「ええ。いけないのです。『神とはなにか?』それは『自分とはなにか?』という問いに近いのです。祈りとは神との対話。なにも求めるものではないのです」
「神との対話? 皆は誰と話しているのですか? ではモライザとはなんなのですか?」
「神との対話とは自己発見の
「可視化したシンボル……」
「故に、カルトにハマる人間は『祈り』すなわち神との対話が十分ではなく、自己を見失い、正しい判断もできない状態にあるわけです」
(頼むから納得してちょ。知らんし)
「なるほど。神とは内なる自己との対話の中に存在するもの。そういうことなんですね?」
「ええ。ですが正直なところ『神とはなにか?』との問いに正確に答えられる者はいないと思っています。奇跡や不思議な事象が、私たちの理解を越えて存在するのも事実なのですから」
(もう終わり終わり。ごっちゃんしー!)
「神は自己に寄り添うような身近なもの。では宗教団体とは? モライザ教も信者から献金という形で金銭を集めている。中には自発的に大金を納める信者もいるのでは? それを平気で受けとっていますよね? 楽して金儲けができるシステムとしか思えないのですよ。宗教法人は税金も免除される。甘い蜜吸い放題だ。違いますか?」
「お話を聞いていると、ネル・フィードさんは神不要論者というよりも、宗教団体不要論者のようですね」
(それなー。僕ちゃんみたいな安月給神父に言われても困るわ。上の者と変わりますので〜って、いねぇし!)
「あなたも、甘い蜜吸っているんじゃありませんか?」
ネル・フィードの目の輝きが怪しさを増す。それに対し、メルデス神父は乾いた笑い混じりで口を開いた。
「ネル・フィードさん。あなたがここに来た理由が分かりましたよ。あなたはジャーナリストですね?」
(これだっ! これで終わりだあ!)
「ジャーナリスト? いえ、私は……」
「隠さなくてもいいですよ。なんだ、そういうことか。どおりで。とはいえモライザに手を出すなんて的外れもいいところですよ」
「だ、だから私はっ!」
「お帰り下さい。私も暇ではありませんので。ちなみに献金やお布施は信者の方へきちんと還元されているのです。暴利を貪るなんて、そんなものはアニメやドラマの中の話ですよ。私の先月の月給は225,470円です。あなたよりも少ないのでは? 甘い蜜、あるなら吸ってみたいものです。では失礼します」
(オッケー! 早く帰ってレディードールちゃんたちとイチャイチャしたいもーん♡)
バタンッ!
メルデス神父は、逃げるように奥の部屋へと行ってしまった。
「ちっ……」
(うまく誤魔化されてしまったな。こ、これじゃあアイリッサに報告できん。怒る顔が目に浮かぶ……)
ネル・フィードはアトラクションでくたびれた老人のように、トボトボと帰宅するのだった。
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