第440話 まずいマルゲリータ
日曜日の朝がやって来た。いま僕はお父様とお母様と礼拝堂に来ている。
聖歌を歌いながらも、ビスキュートのことが心配で仕方がない。アル中の父親に虐待されているに決まってるんだ。早く助けてあげなくちゃ。
僕のこの手で証拠をつかんで、警察に突き出してやる。ビスキュートのかっこいいヒーローになるんだ。今日がその日なんだ。
モライザ様、どうかビスキュートをお守り下さい。僕が駆けつけるまで、どうか。どうか。
あれ?
よく考えたら、僕がこんなに人のために祈ったのは初めてな気がする。
礼拝を終え、僕たちは車で移動。
予約した人気のピッツァのお店にやって来た。ピッツァはお父様の大好物だ。やはり人気のお店だけあって大勢のお客さんで店内は賑わっている。
大きな声の会話や笑い声が、いまの僕にはたまらなく
そう思いながら口に運ぶマルゲリータの味は、まるで粘土を食べているようだった。僕は慌てて水を飲んだ。
ランチを済ませ、次はそのままショッピングモールに向かう。今日はお父様の腕時計とお母様のバッグとお財布、僕のスニーカーを買いに行く。
今日スニーカーを買ってもらえるのを前から楽しみにしていた。でも、もうそんなのどうでもよくなっていた。いらないくらいだ。
僕は1分もかからずスニーカーを選んだ。その分、お父様の腕時計選びも、お母様のバッグ選びも、とても長く感じた。早く帰りたい。
ショッピングが終わってこれで帰れると思ったら、お父様が映画を観に行こうか? と言い出した。僕は顔を歪め天を仰いだ。でも、お母様が早く帰りたいと言ってくれたおかげでことなきを得た。
礼拝でビスキュートの無事を祈り、まずいマルゲリータと落ち着かないショッピングを乗りこえ、ついに僕は好きな女の子を助けに行く!
こんなドキドキは今まで味わったことがない。僕はビスキュートの笑顔が見たい。どんな素晴らしい映画よりもビスキュートの笑顔が見たいんだ。
「アルバート、どこへ行くの?」
「ちょっとスニーカーの履きごこちを楽しむために散歩に行ってきます」
「そう、気をつけてね!」
「はい」
日曜日に一緒に遊ぶような友達が僕にはいない。こういう時はとても不便だなと感じる。靴紐をギュッと結んで外に出ると、お父様が愛犬サリーのブラッシングをしていた。
「アルバート、どこに行くんだ?」
「このスニーカーで散歩がしたくなったんです」
「ずっと欲しがってたもんな。クリムゾンと同じスニーカー」
「はい」
「あまり遅くなるなよ」
「分かりました。いってきます!」
僕は普段、日曜日の午後は読書かゲームをしている。新しいスニーカーがあってちょうどよかった。出かけるいい理由ができたからね。アル中の悪魔がいるかも知れないビスキュートの家に僕は向かう。
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