第216話 君の名は


『はあっ! はあっ! き、気持ち……いい♡ 最高ッ!!』


 腐神ダリアナは目を瞑り、両手で体をさすりながら快楽に酔っている。カテゴリー2の肉体を『腐神との融合』に使用するなど前代未聞。


 しかも、その腐神はハイメイザーである。とてつもないハイブリッド生命体が誕生してしまった。


 駆け巡る血液は脳をハイにさせ、その血液を送り出す心臓の鼓動は正に、テンション爆上げのEDM!


 ダリアナは暫し、そのリズムに体をゆだね、小刻みに揺れていた。その快楽はSEXをうわまわるものだった。


 つくづく、エデルを抜けミューバにやって来てよかったとダリアナは思っていた。


『あはあっ♡』


 ダリアナは大きな淫らな声を発すると、その後、精神統一に入った。


 体に響くEDMをいったん沈める為だ。あまりの快感に手先の小刻みな震えは抜けないものの、平常時の呼吸数、心拍数に自らを整えていった。



 そして、平静さを取り戻した史上最強の腐神は、藤花に言葉を投げかけた。



『赤い髪の女。名を聞かせろ』


 その腐神、頭に2本のツノを有し、灰色の肌にアンティキティラの灼眼しゃくがんの瞳、ナナと同じ、アリスブルーのショートカットヘア。身長は亜堕無や威無と同じく2メートル。


 両掌にはそれぞれに不気味な瞳が輝き、口元からは鋭くながい牙が覗く。そして、長い舌が蛇のように見え隠れする。


「わ、私のせいでナナさんが……ブラックホールでなんとかしなくちゃ!」


 藤花は震える右手をギュッと握りしめながら呟く。


『おい君。無視をしないでくれ。名前を教えて欲しいんだ』


「すぐに死ぬお前に、教える必要なんてあると思う?」


 藤花の静かな怒りに満ちた返答に、ダリアナは笑い出した。


『あはははッ! 私が聞いているのは君であって君じゃないんだ。正確には『中身』の方だ。理解してくれたかな?』


「な……!」

(こ、こいつ! 私のハイカテゴリーの魂に気づいているッ!?)


『おい! それで隠れているつもりか? 私は亜堕無と威無という男女の生命体から元の1つの生命体である『ダリアナ』に戻った。元のハイメイザーとしての力をもってすれば、隠れているネズミにもすぐに気づける。さあ、出てこい。恥ずかしいわけでもなかろう?』


 その時だった。


 藤花の意識を覆うように、もうひとつの意識がどんどん明確になっていく。


 「うわぁ──────ッ!!」


 ガクッ!


 藤花はあまりの恐怖に絶叫! そして立ったまま気を失った。だが、5秒後、すぐに目を覚ました。


『素直に出てきたじゃないか。なかなか大きなドブネズミだ。さあっ! 名を言え!』


 ハイメイザー腐神ダリアナは、一瞬気を失い、目を覚ました藤花に再び名前を尋ねた。


 見た目は藤花そのもの。なんの変化もない。だが、明らかにそこに立っていたのは黒宮藤花ではなかった。


 まとうオーラ、ほとばしる殺気、漂う雰囲気。そのすべてがアンティキティラに引けを取らないハイカテゴリー。ナナがたじろいだ藤花の内なる力。その張本人が、ダリアナの呼びかけにこたえるように現れた。


『どうした? 自分の名も忘れてしまったのか? 私には分かるぞ。君が何者なのか。確認の為に聞いている。さあ、言え!』


 その、『見た目が藤花』の人物はおもむろに口を開いた。


『私の名か。忘れてしまったな。是非とも教えてもらいたいものだ……』


 藤花のかわいい声は普段と異なり、低い男性のような声になっていた。


『ふっ、白々しい。いいだろう、教えてやる。やはり生きていたか。ミューバ人として転生を繰り返しながら力を回復していたようだな!』


『ふはははっ! 私はそんな有名人だったのか。ハイメイザー様にまで知られているとはな!』


『ああ、有名だぞ。『腐神喰いのマギラバ』……宇宙の理をめちゃくちゃにして回っていたのが君だ。この第3ミューバで、君はある人間を殺し、その人物になりすまし生きていた』


『ふっ、その通りだ』


『その人物、後に残酷神と契約を果たす……!』


『それも、その通りだ』


『こんなところで伝説の罪人に会うことになるとはなッ! 第3ミューバでの君の名は! アークマーダー・ネル・フィードッ!! 違うとは言わせないぞッ!!』


『ふはははっ! 正解だ。それを知られたからにはお前を生かしておくわけにはいかんな。消えてもらうッ!』


 藤花のハイカテゴリーの魂は、かつて残酷神と契約を交わし、この世界を滅亡させた人物、アークマーダー・ネル・フィードだったっ!!


 

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