第23章 ひとつ前の世界

エリート弁護士 ピンクローザ編

第217話 ネル・フィードの生活

 時は数万年前に遡る。


 ここは地球。今のひとつ前の世界。


 小国『ディーツ』


 そこにひとりのカテゴリー2の異星人が降り立った。


 彼の名は『マギラバ』


 マギラバは宇宙でもめずらしいダークマター生命体。その為、すぐにその見た目は地球人そのものに変化できた。


 マギラバは宇宙犯罪者。


 全宇宙に点在する16のミューバを渡り歩き、その世界の神を喰い殺す。そして不定期にやってくる腐神も食べてしまうのだった。


 残ネルをここまで読んでくれているあなたならお気づきだろう。


 『腐神』とは、カテゴリー2の種族がカテゴリー1の精神生命体になる為の道具的存在。数百年、数千年に1体現れる貴重な腐神をマギラバは食べてしまうのである。



『たまったもんじゃない!』


『カテゴリー1になるのがどんどん遅くなるじゃないか!』


『腐神喰いを早く捕まえて殺せ!』



 こんな感じでミューバ担当のカテゴリー2の異星人からは不満の声が絶えなかった。そんな中、お尋ね者のマギラバは第3ミューバへとやって来た。


『さて、ここへは初めてきたな。いい感じに神などというくだらん遊びをしてる奴らがたくさんいそうだ。腐神は……まだいないようだな』


 マギラバは人間をひとり始末し、その人間になりすましてミューバで生活することに決めていた。


 ひとりの人物に白羽の矢は立っていた。その男の名は『アークマーダー・ネル・フィード』その地味な生活スタイルから、適応しやすさが決めてとなった。


 深夜、マギラバはネル・フィードの家に侵入。ベッドで気持ちよさそうに眠る彼に手をかざした。


『すまんな。俺は捕まる訳にはいかないんだ。ネル・フィード、君の死は無駄にはしない』


 ギュガガガガッ!!


 ズオオオオオッ!!


 マギラバは右手からブラックホールを発動し、ネル・フィードを闇に葬った。


 『腐神喰いのマギラバ』


 その異名は、まるで食べてしまうかのようにブラックホールで腐神を吸い込んでしまうところからきていた。


 その日からマギラバは、アークマーダー・ネル・フィードとして、ここ第3ミューバでひっそりと生活していくこととなった。


 ネル・フィードの生活パターンはすべて頭に入っていた。その通りに生きながら、腐神が現れたら速攻で始末しに行くつもりだ。


 ネル・フィードは29歳の独身男性。安アパートに一人暮らし。仕事は朝の8時30分から夕方の5時00分まで黙々と同じ作業をしていればよかった。


「お疲れ様でした」


 マギラバがミューバで暮らし始めて3ヶ月が経過した。マギラバは、この第3ミューバでの暮らしが非常に気に入っていた。もっといろんな仕事がしてみたいとさえ思っていた。


「この星のなにがゴミなのだろう。労働をし、対価を得る。とても充実している」


 ネル・フィードは仕事帰り、スーパーマーケットに寄り、愛するビールとソーセージを買う。帰宅して、ビールを冷蔵庫へ放り込むと、熱めの風呂に頭まで浸かり息を思いっきり吐き出す。


 ブクブクブクブクブクブクッ!!


 ザバー!


「ぷはあっ! 最高だあ!」


(腐神とミューバ人を戦わせるというくだらんシステム。そんなことをしてまでカテゴリー1になど、なりたくはない)


 ちゃぽ……


(肉体のない世界。そこに本当の幸せがあるとは思えない。宇宙の理に潜む謎を必ず暴いてやる!)


 ネル・フィードが腐神を始末することで、ミューバ担当のカテゴリー2がカテゴリー1になるのを邪魔している形となっていた。納得のいかない宇宙の理に、一石を投じる存在として活動していた。


 熱い風呂から上がると、先程買ったソーセージをフライパンで焦げ目が付くまでじっくりと焼き、キンキンに冷えたビールとジューシーなソーセージで1日の労働の疲れを癒す。それが彼のルーティーンだ。

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