第59話 リテイク

「美咲ちゃん」


 藤花はひょっとこのお面のまま美咲に話しかけた。


「なあに? 藤花さん」


「動画、よかったらもう1本撮らない?」


「え? もう1本?」


「そう。さっきのでブラック・ナイチンゲールの『存在』は伝わったと思うの。さらに命の炎と髪色の能力の動画をあげたら『力ある者』として認めてくれると思うんだ。どうかな?」


「そ、そうだね。激しく怪しんでた人 多かったし」


「よし! じゃあ、イバラちゃんの『光速移動』陣平さんの『飛翔』そして西岡さんの『メデューサ』私の『変幻自在』の撮影をしましょう」


「それいいねっ! やろやろっ!」


「まあ、中には『フェイク』って言う人もいそうだけどねぇん」


「美咲ちゃんはイバラちゃんの軽トラ持ち上げられそう?」


「激しく! いけると思う」


「美咲っ、ぶん投げないでよっ!」


「あははは。大丈夫ですよ!」


 こうしてブラック・ナイチンゲールの動画 2本目の撮影が始まった。皆、外に出て準備運動。アンティキティラがスマホを持ち、再び撮影係となった。


 ピッ


 美咲がカメラに語りかけた。


「皆さん、おはこんばんちは。ブラック・ナイチンゲールです。今回は私達が腐神と戦える力を持っているということを実際にお見せするという内容です。決して作り物ではありません」





 まずはイバラと陣平の能力の撮影からする事となった。


「よーし! いつでもいいよぉ!」


 ピッ


「私は20メートル、光の速さで移動できま〜す! いっくよぉ〜!」




 ビッシュウゥゥッッッンッ!!




「はいっ! っと! どうですか? 一瞬でしょ!」


 20メートル先から一瞬でカメラの前まで来たイバラを撮影、今度はそのままカメラを上に向ける。



「おほほほ。今度はワシじゃい! ほれっ! 空飛べるんじゃ!」


 シュンッ! シュンッッッ!


 陣平は8の字に空を飛び回って見せた。そして、着地。



 スタッ!


「ほれ、お次はあっちの2人じゃ」


 アンティキティラは陣平が指差す、藤花と真珠へとカメラを向けた。



 ボボォンッ!


「皆さん、私達全員が使えるこの炎、『みことの炎』と言います。特性が分かり易い私達2人の命の炎をお見せしますね!」



 藤花は右手の炎を大きな剣に変化させる!


 シュボオォォォオオオッッッ!!


 ギュアアッッ!!



「これが私の命の炎ッ! 炎を武器化して腐神を断つッ!」


 ビシッ!


 ひょっとこ藤花はカッコよくポーズを決めた。



「今度は私ねぇん♡」


 ボボォンッ!


 真珠は右手に黒の炎を纏わせた。


「私の命の炎ッ! メデューサッ! 出ておいでッ!」



 シュボオォォォオオオッッッ!!


『シャアアァァァァ!!』

『シャアアッッッ!』


「これが私の命の炎、メデューサ! 『黒炎の蛇』がどこまでも腐神を追いかけて噛み殺すッ! わよ♡」


『シャアアッッッ!』


 メデューサがカメラに向かって大きく鋭い牙のある口を開けてアピール。


「最後は私だよ」


 カメラは軽トラに手をかけた美咲を映す。


「今から見せるのは私達に基本的に備わっているパワーです。では始めます」



 グアンッッッ!


 美咲は軽トラを両手で頭の上に持ち上げた。


「この軽トラ、発泡スチロールでできてるわけじゃないよ! 本当に重いんですよ!」


 グングンッ!


「それでも私達はこのぐらいは簡単に持ち上げられます。この力にさっきの能力を合わせて、腐神をやっつけます! なのでこの世の終わりなんて訪れませんっ!」


 グイッ! ドスンッ!


「とにかく腐神が本格的に動き出す3日後までにみなさん、できるだけ安全な場所に身を隠していて下さい! 以上! 腐神掃討集団ブラック・ナイチンゲールでしたっ!」



 ピッ





「これなら、『死ね』とか言われないよ! きっと!」


 藤花はひょっとこのお面を外しながら言った。


「激しくいけてたよね? 私たち」


「美咲! 『怪力の持ち主』って言われちゃうね!」


「ヤヴァい。ファンが離れていってしまう……」


「あははは♡ 美咲っち、かなりかわいいって言われてたもんねー」




 この動画の反響はすごかった。翌朝には100万回再生されていたほどである。コメント欄も応援のメッセージで溢れかえっていた。


 ニュースでは映像の真偽が検証され、世の中はハッキリと『ゼロワールド』対『ブラック・ナイチンゲール』という構図が出来上がっていくのであった。

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