第461話 Go with the flow
急激な発作で息が乱れる僕を救護室に運ぶ神父、ダミアン・グリムウッド。彼は僕の耳元で言った。
『そうカッカせずに、変態同士、仲良くしましょう』
なぜ、こいつは僕が変態だと決めつけるんだ。イラついた僕はもちろん返事をしなかった。その後、薬を飲んだ僕はベットの上で落ち着きを取り戻し、眠った。起きると、もうすでに神父はいなかった。
1週間後、再びダミアン・グリムウッドはやってきた。いつも通りのニヤついた顔で、子供相手にいかにも神父らしい話をしていた。
「困難は私たちの心を試し、鍛えるものです。それはまるで、粗い石が磨かれ、美しい宝石になる過程のようなものです。困難を通じて、私たちは謙虚さや感謝の心を学び、他者への思いやりを深めることができるのです」
「はい!」
なにを言おうが神父の言葉は僕の心には届かない。そんなうわべの言葉なんかには興味がない。それより、あの時あんたが言った言葉の真意を教えてくれ。
いつも通り1時間の滞在でグリムウッド神父は帰り支度を始めた。僕はその姿から視線を外すことができなかった。僕はゲイではないが、そう思われても仕方がないレベルで彼を見続けた。
神父はマザーと話をし始めた。世間話にしては長い。来週なにか大掛かりなイベントでもやるのか? 10分後、ふたりが僕を見て手まねきした。心がざわつく。
「アルバート、今日からあなたはグリムウッド神父の家で暮らすのよ。よかったわね」
そう言うマザーの顔からは安堵がみてとれた。僕のような暴力的で、なにを考えているか分からない子供の世話は、もうたくさんなんだろう。
それより問題は神父のほうだ。なにを考えているのか全く分からない。僕をどうするつもりだ? こんなに早く動くとは思わなかった。
正直、ここにいても僕にはなんの楽しみもない。毎日が暇すぎて地獄だった。自ら変態同士と言った神父の考えやライフスタイルにはとても興味がある。僕は少考し、この生じた流れに身を任せることにした。
「マザー、短い間でしたが大変お世話になりました。グリムウッド神父のもとで、人としての在り方を学んでゆきたいと思います。ありがとうございました」
ここにきて、初めてまともに話した僕にマザーはとても驚いていた。僕はそもそも優秀なんだ。偏屈なくそガキどもとの生活もこれでオサラバだ。
僕は部屋に戻り、着替えと貴重品をリュックに入れ、マドレーヌを抱いて神父とマザーと共に玄関へ向かった。
「メルデス君、君に了承を得ることなく話を進めたことは申し訳なかった。でも、君は一緒に来てくれると思っていましたよ」
神父のその言葉に、僕は履いた靴のつま先をあえてトントンとしてから、マザーに遠慮することなく答えた。
「気にしないで下さい。こんなアリの巣みたいなところに長居は無用です。僕は自分の中の
こうして僕は2ヶ月たらずで孤児院を出た。自称変態のダミアン・グリムウッド。彼との生活は暗闇で静かに蛇行する海流。それにのった僕の人生は、想定外に変化していく。
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