第460話 グリムウッド神父

 バカな奴が多い孤児院での生活は、僕にとって苦痛以外のなにものでもなかった。将来への展望もなければ希望もない。僕の心は、ほぼ廃人といっていいレベルにまで落ちていた。


 僕は腐ったオレンジ。そう思う日も少なくない。美しいビスキュートとの思い出だけが僕の支えだった。マドレーヌを常に抱いている僕をからかったくそ野郎には顔面パンチをお見舞いしてやった。僕は孤児院で完全にヤヴァい奴としてけむたがられていた。


 このオンボロ孤児院には週に一度、グリムウッド神父が来て、いろいろと為になるお話をしてくれる。荒んだ心に差し込む一筋の光。心が洗われるようだ。


 んなわけねぇだろ。はっきり言って邪魔なんだよ。ウザい。さっさと帰りやがれ。しゃべるな、くそ神父。


「みなさんの心の中に秘めたる愛と慈悲の光を放ち、他者を包み込むのです。己を知り、他者を尊重し、誠実な心で世界を救うことが、モライザ信徒のあるべき姿なのです。分かりましたか?」


「はいっ!」


 神だの、救うだの、偽善者ぶりやがって。お前だって一皮むけば、エロくて残酷な醜い化け物なんだ。僕は知っているんだ。人間なんて家畜以下の生き物なんだ。それを自覚できていないことがどれほど罪深いか。


 僕は自覚している。この世界も人間も本来、存在する価値なんてないってことを。意味や価値があるとするなら、それは生ではなく死のほうだ。死は美しい。そして、なにより尊い。


 僕は毎日ビスキュートの死体と過ごした時間のことを思い出す。下がっていく体温、指一本どころか心臓すら動いていない完全なる無反応。死体のみが醸し出す、生き物にはない圧倒的なエロス。


 この境地に辿りつける奴なんて、いやしない。にたにた気持ち悪い笑顔を振りまきやがって。くそ神父め。


「はあ……はあっ……」


 ヤヴァい、ストレスで薬の効きめが! 怖い! 気持ち悪い! 生きている人間が! 助けてっ!


 僕が震え出して声をあげそうになったその瞬間だった。


「先生! この子の常備薬を早く持ってきて下さい! 発作がでかかっています!」


 くそ神父が僕を抱きかかえ、救護室へ運び始めたんだ。


「は、離せよ、くそ神父! 僕に触るな……気色悪い……!」


 僕のその攻撃的な発言に対して、くそ神父は思わぬ返事をしたんだ。僕の耳元で、誰にも聞こえないように。

 



















「そうカッカせずに、変態同士、仲良くしましょう……」


「……!?」


「君はこんなとこにいちゃいけない。僕のうちで暮らしませんか……?」


 こいつ、なんなんだ?

 

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