第307話 本当に馬鹿

 ……バッハ君









 ……ラーバッハ君っ!









 ホラーバッハ君っ!











『ホラーバッハ君てばッ!』


『こ、ここは? それにエ、エ、エ、エルッ、エルザさんッ!?』


『お久しぶりなりね!』


『ど、どうしてッ!? エルザさんが生きてッ! ああっ! 頭が混乱してきたッ!』


 プシュ!


『まあ、飲みなさいな。はい!』


『レ、レッドブルー、エルザさんのレッドブルーだ♡ ううっ!』


『あはは。泣きすぎだってば』


『だって、僕はこの12年、ずっとあなたのことを想い続けてきたんです』


『ありがとう。すごく嬉しいよ』


 ゴクリッ! ゴクリッ!


『はあっ、やっぱりエルザさんと飲むレッドブルーはおいしいな……』


『ねえ、ホラーバッハ君』


『なんですか?』


『一端の社会人にはなれた?』


『一端の……ですか?』


『うん。なれた?』


『なんていうか、仕事はそれなりにこなしていますよ。上司にも信頼され、部下からは尊敬されていると思いますし……』


『そうなんだ』


『でも僕は、悪魔になりました……』


『悪魔に?』


『許せなかった。ずっと12年間、僕は葛藤の中にいました……』


『なにがそんなに許せなかったの?』


『そ、それは、え、えーと……』


『あはは。あれでしょ? あの給湯室の会話。先輩たちのことが許せなかったんでしょ?』


『……っ!?』


『ありがとう。大丈夫だよ。もう十分傷ついたし。はあ。分かってたんだけどねー。先輩たちが私のことをどう思っていたかなんてさ〜』


『エルザさん、あれを聞いていたんですかっ?』


『あはは。聞いちゃったなりよ』


『僕は12年間、一端の社会人なるために自分を抑え込んで生きてきた。それはあのクソ女どもへの殺意を抑えることとの戦いでした!』


『よくがんばってたよね。知ってる。よしよし、偉い偉いって思ってたよ』


『もうエルザさんは、全部、知っているってことですよね?』


『ん? 全部? あー、ホラーバッハ君が先輩たちをフリーフォールとか言って面白おかしく殺して、その後に貨物列車に轢かせてミンチにしたってこと?』


『は、はい。やっぱりご存じでしたね。あ、あはは……』


『あれね。本当に馬鹿だよ』


『だ、だけどっ! 僕はっ!』





























『君、本当に馬鹿。なんであの給湯室の時にさ。あの人たちを速攻で殴り殺さなかったわけ?』












『……え?』


『え? じゃなくて。大好きな私のことをあそこまで虚仮こけにされてるのにホラーバッハ君は走り去ってレッドブルー飲んで泣いてただけだよね?』


『な、泣いて、ましたけど。エ、エルザさん?』


『君、ちんこ付いてんの? あー、私の内臓食べて勃起してたよね? ちゃんと付いてるんだからさあ、あそこは給湯室をでしょ? 違う?』


『!?』

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