第426話 ファミチキのカリスマ

 『セレン・ガブリエル』


 アイリッサの両親の命を奪ったネオ・ブラック・ユニバースの教祖であるセレンと同名。やはり、一連の能力者による騒動とネオブラは、深い繋がりがあるのだろうか?


「セレン・ガブリエル。名前だけでは男女の区別もつかないですね」


「この人がいなければ、お父さんとお母さんは死なずに済んだのに……!」



 『ネオブラへの復讐』



 アイリッサは、長年の悲願を叶えられるかも知れないと思うだけで、LINEのトーク画面を開こうとする指が小刻みに震えた。









〈 セレン・ガブリエル



6/ 3 (水)


お腹すいたよー

13:08


何も食べてないの?

13:10 既読


うん

13:10


なに食べたい?

13:10 既読


チョコとグミとポテチ

13:11


だけでいいの?

13:11 既読


ファミチキは忘れないで

13:11


分かったわ、まっててね

13:11 既読






「ちょっ、なによこれっ!?」


「まるで親子の会話のようですね」


『あはは、本当だー……』





5/9(土)


おーい!

10:25


おーい!

10:25


おーい!はやくきてー!

10:25


どーしたの?

10:27 既読


スマブラやろー!

10:27


あれもう飽きたわ

10:27 既読


コーラとファミチキは忘れないで

10:27


よく飽きないわね

10:28 既読


すぐきてよー

10:28


はいはい

10:28 既読





 アイリッサはエミリーとセレンの全てのやり取りに目を通したが、すべてが幼い子供との会話のようだった。


「完全にクソガキ。ネオブラの教祖感ゼロ。期待してたのに。あはは……ぷひー」


「アイリッサさん、確かに子供のような気もしますが、しょせんは文字のやりとりです。まだ、分かりませんよ」


「お菓子とかゲームとか。ネオブラの教祖とはイメージがかけ離れすぎですよ……」


 アイリッサが落胆する中、エルフリーナだけは違った。そのなんの変哲もないLINEのやり取りに、とてつもないおぞましさを感じ、震えていた。


『わ、私……』


「どうしたの? リーナ」


『う、ううん。なんでもないっ!』


 エルフリーナは悪魔の力を得る前、『児童売春』真っただ中の、ある日の光景が目に浮かんでいた。


 その日、いつものように叔母が連れてきた男は異様に美しかった。年齢も性別も分からない。それが第一印象。


 きめ細やかな白い肌、雪解け水のように透き通る瞳、柔らかく揺れる金色こんじきの髪。体臭もまるで果実のように甘い。さらに、漂う雰囲気にはカリスマが含まれる。少女マリーは、その男に天使の影がチラついた。


 だが、それも束の間のこと。


 その美しい男はひとしきりマリーの体をむさぼり射精すると、むくりと起き上がり、持参したコンビニの袋からある物を取り出し、一心不乱に食べ始めた。


『ファミチキ』


 それも、ひとつやふたつではない。


 計13個のファミチキを無言で食べ終えると、500mlのコーラを一気に飲み干し、大きなゲップをして、こう言った。


「今日はありがとう。とても有意義な時間だったよ。幸せには気づく幸せと、成し遂げる幸せの2種類がある。そのふたつを、君は同時に手に入れる日が来る。きっとね!」


 爽やかな笑顔と油っぽいファミチキの香りを残して、その男は帰っていった。


 1年後。アンネマリー・クロイツァーは、ハンス・エルリッヒと出会う。


 エルフリーナは、何故かこの出来事を話す事ができなかった。

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