第363話 困った時の神父様

 翌日。私は学校へは行かず、大魔司教がいるという場所へ介護タクシーで向かう事にした。


 見慣れた景色はとうに見えなくなり、タクシーはどんどん人の気配のしない場所へと走って行った。


「お嬢ちゃん、言われた住所へは向かっているけどさ。こっちはほぼゴーストタウンだぜ? 大丈夫なのか?」


「ゴーストタウン? はい、大丈夫です。どんどん行っちゃってください」


 ふーん。ゴーストタウンねぇ。悪魔の力を得るんだし、当然と言えば当然だね。いい感じじゃん。


 そして、1時間程で私はに辿りついた。タクシーのドアが開いた。


 ガチャ


「着いたよ。8,500ルーロだ」


「はい」


 私は代金を支払い、タクシーから降ろしてもらった。すると運転手のおじさんが心配そうに話しかけてきた。


「お嬢ちゃん、危ない事に首突っ込むなよ。俺もいろいろと見てきたが……」


「おじさん優しいんだね」


「いやいや、そんな事はないよ。君みたいな足の不自由な子が、なんでこんなとこに来るのかが不思議でね。なんか騙されたりしてんじゃないのかと……」


「消えてくれる?」


「えっ?」


「うっせーから消えろっ!」


「な、なんだよ! 心配してやってんのに。ちっ! もう知らねーぞ!」




 








 私はお節介そうな運転手のおっさんを追い払った。そして、その住所に怪しげに佇む建物を睨みつけた。



「ここで間違いない。教会だったんだ。まあ、ぽいっちゃぽいけど」


 着いた先はボロい教会だった。ここで悪魔の力か。しっかしまいったな。結構な階段じゃん。登れんし。 


 教会を見上げながら困っていると、1人の男が声をかけてきた。


「あなたはこの教会に用があるのですか?」


 銀の長髪を靡かせ、司祭平服キャソックに身を包んだ紳士的な男。私はこの男を知っている。こんな所で出会うとは。モライザ教のイケメン神父。確かメルデス神父だったか? クラスにも何人かファンがいたはずだ。


 にしても、私は今から悪魔の力を得る為にここに来た。敬虔けいけんな神父様にはそんな事は口が裂けても言えやしない。


 てゆーか、こんな辺鄙へんぴなとこにメルデス神父がなんでいるの? そっか、哀れな信者を救う為の活動中かなにか? なんにしても助かった。


「はい。この教会に用があるんです。助けて下さい。神父様」


 その時の私を見るメルデス神父の目は、さほど敬虔な神父のものではない様に感じた。

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