第400話 氷撃 vs 旋風

 戦場に戻ったふたりの眼前で起きた目を疑う光景。それはネル・フィードが手も足も出せずに凍りつき、もろくも砕け散った姿。


『ゼロさんは死んでない。生きてる』


「だよね? 私にも分かる」


『私があの人と戦ってる間に元気ボールをゼロさんに!』


「分かったよ。リーナ」


 エミリーはふたりの会話に耳を傾けながら、指先から遊ぶようにパウダースノーを出し、冷徹な微笑を浮かべる。


「エルフリーナちゃん、おとなしくダークソウルを渡す気になったんだ?」


 エルフリーナはアイリッサを守るように、覚悟を胸に堂々と前進した。


『スーパー美容外科医のエミリー先生。私はあなたの手術で生まれ変わろうと夢見てた……』


「今のあなたを見る限り、いじるところはどこもない。パーフェクト♡」


 逆境の日々を支えてくれた憧れの存在からのそんな言葉にも、エルフリーナは更に一歩前に出る。


『今の私にとって、完全にあなたは敵。私があなたを倒すから!』


「能力者ごときが私に喧嘩を売るなんて、愚か以外の何者でもないわね。パウル様に反旗をひるがえすとは、恥を知りなさいッ!」


 一触即発の緊張感の中、エミリーの言葉は、まるで手術用のメスの様にエルフリーナの心に鋭く突き刺さる。


『ねぇ、judgement ってなんなの? パウル様は私たち、闇の能力者がじゃないわけっ?』


 彼女の声は微かに震えていた。


 体を貪る男たち以外に必要とされたということは、アンネマリーという少女の中に確固たる人としての存在価値を芽生えさせた。


 パウルにより刻まれた心の輝きはまがい物。そう分かった後にもかかわらず、目頭が熱くなる自分の弱さに彼女は苛立っていた。


「事はそう単純ではない。そういうことだよ。お子様のエルフリーナちゃん」


『私バカだからさ、なんでも単純じゃないと気が済まないんだよね!』


 シュゴオオオオオッ!


 シャキイッ!!


 エルフリーナは瞬く間に魔風を両手にまとわせたッ!


 パウルの『配下同士』の戦い。緊張感は高まり、周囲の空気は重く凝固する。


「そんな小手先のお遊びでは、私を傷つけることは不可能!」


『うるせーよ!!』


 シュパッ!! シュパッ!!


 シュンッ!! シュンッ!!


 エミリーはエルフリーナの高速の斬撃を紙一重でかわす!


「驚いた。早いじゃない!!」


『うっさい!!』


 エルフリーナは攻撃の手を緩めない。雷鳴のような迫力を帯びた猛攻を浴びせ続ける!


 ブォンッ! シュンッ!


 ギュアンッ! シュンッ!


 ズッババババッ! ヒラリッ!


 徐々にエルフリーナの攻撃が鋭さを増す。エミリーの表情からは余裕が薄れていき、緊張の色が漂い始める。


『隙ありッ!! たあっ!!』


 ドガガッ!!


「きゃっ!!」


 ついに、そのうちの1発が余裕を装っていたエミリーの顔面に炸裂したッ!! 


『なんだ、当たるじゃん!』


「私の美しい顔に……よくも!!」


 パキパキキキッ!!

 

 美しい顔を傷つけられ、いかったエミリーの手刀が鋭い氷のやいばと化す!


 それと同時に、エルフリーナも魔風を倍増させ、必殺技で応酬! 両者のエネルギーがぶつかり合い、渦を巻く!




氷河の斬撃グレーシャル・スラッシュ──────ッ!!」


無秩序な旋風アナーキー・ヴォーテックス──────ッ!!』




 ドオォッ──────ンッ!!



















「ネルさん、大丈夫っ!?」


「う、アイリッサさん……」


 ネル・フィードは右腕を残し、胸から下は全て砕け散っていた。ダークマターの再生能力でも10分以上はかかる重症だ。


「こんな状態でも死なないって、エクソシストもかなりの化け物ですね」


「あはは……化け物 言わんといて」


「今、天使の力で治しますからっ!」


 エルフリーナが強敵エミリーと激闘を繰り広げる中、エンジェル・アイリッサはネル・フィードの回復に全力であたった。

 

 ブウウウゥンッ!!


「そ、その光の玉は……?」


「ネルさんっ! いきますよっ!」


「は、はい……」


 ネル・フィードは、いろいろと聞きたかったが、とりあえず身を委ねた。


「エンジェル・元気ボールッ!」


 ズズズッ! ズオンッ!


 ズキュキュ──────ンッ♡


 ボォウッ!!


 元気ボールが、重症のネル・フィードの体内にゆっくりと吸い込まれた。彼の体は金色に輝き、荘厳そうごんなオーラに包まれた。


「エンジェル・元気ボール……? なんちゅうネーミングですか……あはは……」


「ネルさん、黙っててっ!」


 ネル・フィードの肉体再生速度が一気に増したっ! 30秒で全回復っ!


 ズオオオオオオッ!!


 ブアオ─────ッ!!














 




 スクッ!


 ネル・フィードは立ち上がり、体を捻り、伸ばし、力を込めた。


「アイリッサさん、相変わらず凄いですねっ! ばっちりですよ!」


「でも、あのエミリーって人、強すぎますよね? どうしたらっ……」


 ネル・フィードは必殺技をぶつけ合った2人に鋭い視線を向けた。その目に映ったのは、両手を失い、うずくまる、苦悶のエルフリーナだった。


「エルフリーナッ!!」

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