第6話 余命

「じゃあ、みんな! 聞いて」


(イバラちゃんがなんでそんな事になってるの? ねえっ!)


 藤花が混乱する中、会場に天使イバラの音声が流れ始めた。


『ファンのみんな、天使イバラです。ごめんね。私、病気になっちゃった。バミューダ病って知ってる? 私は聞いた事もなかったよ。最近みょうに体のあちこちが痛くて、ときどき動けなくなっちゃうんだ』


(動けないッ!? そんな……)


『だからステージに立つことが困難になっちゃったの。本当はそこに行って、直接みんなに話したかった』


(イバラちゃんッ!)


『でもこの1週間、症状がひどくて。点滴しながら寝てるの。大きな声も出せなくなっちゃった』


(声がっ? 歌えないのっ!?)


『でね、今回私は、大好きで大切な満開のSAKURAを……脱退することに決めたの。みんなと同じ、まんさくのいちファンになることにしたの』


(イバラちゃんにはステージにいて欲しいよっ! 脱退なんてしないで!)


『客席からみんなと一緒にまんさくを応援することにしたの! そしたらね、なんだか元気が出てきて、この病気に勝てそうな気がしてきたよ!』


(絶対に大丈夫だよっ! イバラちゃんっ!)


『今日のこのライブも……病室からみんなと一緒に観てる。だから、ステージにいる4人を、私と一緒に応援して欲しいの』


(もちろんだよっ!)


『満開のSAKURAは私の夢。だから みんな、これからも、どうぞよろしくお願いします』


 プツ


「以上です」


 静まり返る会場。姫野ミルクココアは再びマイクを持ち、ファンに、イバラに、語りかけた。









「これがイバラの決断、そして思いです。私たち4人、イバラの為にこの満開のSAKURAを一生懸命、咲き誇らせていきます! イバラ、絶対に戻ってきてッ! 聞こえてるよね? 待ってるからッ!! みんな待ってるからッ!!」



 会場は絶句するファン、涙するファンで溢れていた。藤花も涙が止まらなかった。そして、しゃがみこんでしまった。


「ああっ! うううっ……」


「藤花! 大丈夫っ!?」


 杏子もしゃがんで藤花の頭を撫でたり体をさすったり、なんとか落ち着かせようとしていた。



 その後、中には帰ってしまう人もいたが、大半のファンはいちファンとなった天使イバラと一緒に、4人となった『新生・満開のSAKURA』のライブを最後まで応援した。








 ライブが終わり、藤花は杏子に支えられながら、よろよろと外に出た。


「イバラちゃんが病気って、バミューダ病? なんなのそれっ?」


「ねぇ。私も聞いたことないな」


 藤花と杏子はスマホでバミューダ病を調べた。





 『バミューダ病』


症状: 不定期に全身の痛みが昼夜を問わず襲ってくる。めまい、動悸、手足の震え、発声困難がある。その他の症状も報告されているが、そのほとんどがまだ解明されていない。


発症後、余命は長くて『半年』と言われている。



「なっ!!」


「えぇっ!?」


「は、半年?」


「そ、そんな……」


「イ、イバラちゃんが、いなくなっちゃう! いなくなっちゃうよ……」


「長くて半年……って事はもっと短い可能性も?」


「はっ、方舟様にお願いするしかないっ!! イバラちゃんを救って下さいって!! 杏子ちゃんもお願いっ! 急いで帰ろうっ!!」


「うんっ!!」


 こうして、2人は下戸九条を足早に去ったのだった。

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