第428話 メルデス神父のお誘い

 獅子ヶ辻ししがつじ空白くうはくとエミリーのLINEのやり取りにより発覚した、美醜逆転脳を悪用した、整形美人を自動的に自殺オートマティック・スーサイドに追いやる悪魔の人体実験計画。それは不幸にも実行され、13人の犠牲者を出してしまった。


『13人の美女が同時に自殺』


 その報道が世に与えたショックは、現在、大国ルウシアが引き起こしている戦争にも引けを取らなかった。

 

 そんな悲惨な現実に打ちのめされる4人を嘲笑うかの様に、エルフリーナのスマホは鳴った。


『メルデス神父っ……!』


「なんだとっ!?」


「メルデス神父様……」


 エルフリーナはネル・フィード、アイリッサ、ペッケの3人に目配せし、スピーカー通話に切り替え、普段通りにメルデス神父に応答した。


『もしもーし。どしたの? 電話なんてめずらしくないっ? あっ! またドールデリバリー?』


『では、ありませんよ。それはエルフリーナ氏が1番分かっている事でしょう?』


『うーん……かもしんないっ!』


『何をやっているんですか。私はできれば君を殺したくはないのです』


『えっ……?』


『命令が下されているのです。裏切り者の君を、殺す様にと』


『覚悟はできてるよ』


『エルフリーナ氏…………』






 2人の間に芽生えた友情にも似た感情。数秒の沈黙の中にも、それが漂っていた。


『私が動かずともエルリッヒ氏、Judgment、そのどちらかが必ず動く。君の死は決定事項となっているのです』


『それなー』


『何があったのですか? 君には君の追い求める世界があったはず。その価値観の下、確固たる信念を持ち、悪魔として行動していた。違いますか?』


 困惑のメルデスに対し、エルフリーナは澄み切った大きな瞳で、想い人であるネル・フィードをじっと見つめてから話し始めた。


『メルデス神父、この世界は変わるんだよね?』


『そうです。変革の時なのです』


 エルフリーナは胸に手を当てる。


『それと同じ。私にも変革が起きたの。宇宙も世界も、社会も人間も、たえず変化する。それは何も強い力が介入する事なく、起こるべくして起こる。全ては流動的なんだよ』


『時に、時代の流れを大きく変える為のビッグパワーは必要なのですよ』


『悪魔なんてやっぱり不自然なんだよ。戦争と同じ。何も生み出せないどころか、破綻を引き起こすだけ……』


『闇の能力者らしからぬ、実に一般的ジェネラルで退屈な発想じゃないですか。もう君の中のダークソウルは、完全に機能を停止しているのかも知れませんね』


『私は残りの僅かな人生……新たな自分で毅然きぜんと生きたいっ!』


『…………』


 このメルデスの沈黙には、先程の友情めいた感情は微塵も含まれていない。その場の全員がそれを強く感じた。


『ディストピア創生、私はもういらない……ごめんね。メルデス神父』


『分かりましたよ。エルフリーナ氏』


『……私を殺すの?』


 メルデスは憤りを込めた長い溜め息を吐くと、打って変わった聖職者の物腰で語りかけた。


『ネル・フィードさん。あの日 以来ですね。そこにいるのは分かっていますよ。あなたが能力者狩りでしたか』


 ようやく来るべき時が来た。ネル・フィードはその口角を上げる。


「メルデス神父、私はあなたが何かしらの罪を犯していると、あの時点で既に確信がありました」


『でしょうね。あの目はそういう目だった。私は怖くて仕方がなかったんですよ。あなたの目がね……』


「エルフリーナのダークソウルはこちらで処分します。彼女にはきちんと人として寿命を全うしてもらう。もちろんメルデス神父、あなたにもです」














 再びの沈黙。


 30秒の間をおいて、ついにメルデス神父が決戦の場を告げる。 


『あなたとはもう一度ちゃんとお話がしてみたい。今夜9時に礼拝堂でいかがでしょう?』


「分かりました。9時に礼拝堂ですね? あの時は一方的に会話を終了されてしまいましたからね。とても残念でしたよ」


『エルフリーナ氏とアイリッサさんも是非お越しください。来ない場合は、永遠のレディードールを夜の街に放ちます』


「例のゾンビをっ?」


『それもご存知でしたか。ゾンビに襲われた人間はゾンビになります。バドミールハイムの街は一夜にしてゾンビタウンと化すでしょう』


「メルデス……っ!」


『あなた方は私の言うとおりにするしかないのです。では、お待ちしていますよ……』


 プツッ!


 指定された時間と場所。


 謎の多いメルデスの実力。さらに、どんな罠が待ち受けているのかも分からない。ネル・フィードはカーテンの隙間から暗くなってきた外を見た。


「できれば2人をこれ以上、危険な目に会わせたくなかったのですが……」


「ネルさん、大丈夫ですよっ! 私の天使の力も頼って下さいっ!」


『私、ゼロさんよりも強いしーっ!』


「あはは……そ、それもそっか!」


 ハイスペック女子に気押され気味のネル・フィード。でも、そろそろ主人公をかっこよく活躍させたいと思う、作者えくれあ♡であった。

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